中教審答申を読み解く

中教審答申を読み解く
中央教育審議会「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~(答申)」について

2021年2月16日
大阪教育文化センター事務局長 山口 隆
【大阪教育文化センターだより№152(2月22日)に掲載】

はじめに

中央教育審議会(中教審)は1月26日、「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~」と題する答申(以下、答申)を発表しました。この答申は、後で述べるように、菅内閣がすすめる、デジタル化による国民管理と支配の一環として、ICTによる子どもと教育の支配をねらう重大な問題点を持つものです。また、新学習指導要領が2020年度に小学校で全面実施されたばかりなのに、GIGAスクール構想の前倒しに沿って、早くも新学習指導要領が打ち出した方向を修正しようとするものです。こうした重大な問題点とともに、現場で活用できるいくつかの注目すべき点もあると考えます。
以下、この答申について、とりあえずのコメントをおこないます。

1.ICTによる国民管理の一環として、子どもと教育の管理をねらう

菅内閣は、マイナンバーカードの運転免許証や健康保険証、銀行口座との紐づけなどをすすめようとしています。どれもが重要な個人情報であり、こうしたあらゆる個人情報を一元的に管理することで、国家権力が国民を管理し、監視するとともに、このデータを民間ビジネスにも利用しようとするものです。そのためにデジタル庁を創設しようとしています。

答申では、教師の負担軽減を口実に、ICTを活用して、子どもたちの学習履歴(スタディー・ログ)や生徒指導上のデータ、健康診断情報等を蓄積し、利活用すると述べています。上記のマイナンバーカードとの紐づけと一体に、子どもたちの学習や生活の履歴という個人情報が蓄積されれば、子ども時代から大人になるに至るまでの個人情報が一元的に管理されることになり、それをとおした国民管理にとどまらず、子どもと教育の管理をねらうものといわなければなりません。

2.「個別最適な学び」の名のもとに、学習の変質をねらう

答申は、「個別最適な学び」という文言を使用しています。これまで文部科学省は、Society5.0に向けた学校ver3.0では、「個別最適化された学び」という文言を使用していました。微妙に表現をたがえているのは、「誰のために誰が個別最適化したのか」という批判をかわすために、おそらくは、「子どもにとって」「個別最適な」学びという表現と受け止められるためのレトリックだと考えられますが、答申自身が「Society5.0時代が到来しつつあり」と述べていることからも明らかなように、本質的には、これまで文部科学省が述べてきた「個別最適化された学び」と変わりはないと考えられます。そのうえで、ここでは、答申の「個別最適な学び」という文言を使います。

この「個別最適な学び」は、学習のあり方そのものを変質させるものであると言って過言ではありません。本来学習は、個別性を持ちつつも、集団性を持つものです。とりわけ学校は、子どもたちの集団的な学びを保障するためにあります。子どもたちは、自然や社会、人間に対する認識を自然とかかわりながら、社会とかかわりながら、そして、集団とかかわりながら学んでいきます。それは、まぎれもなく集団的な学びであり、授業は、そうした対話的、応答的関係でつくりあげられるものです。
そのことについて、大阪教育文化センターは提言「オンライン授業について」で、以下のように述べています。

「授業での対話的・応答的関係は、教師と子どもたちとの間だけで展開されるものではありません。授業は学級という集団でおこなわれます。その中で、子どもたちどうしの対話的・応答的関係が形づくられます。集団で学ぶからこそ、たとえば、ある子が発言したときに、「それは、わたしの考えと少し違うような気がする」また、「私の考えとよく似ている」と、ほかの子が心を動かします。そして、そのことを発言します。そのことの積み上げによって、授業に広がりと深まりが出てくるのは、これも多くの先生方が経験されていることと思います。」

ところが、「個別最適な学び」は、そうではなく、学習を子ども個人のものとしてしまいます。つまり、本来、集団で学びあうべきである学習活動を、学習を個別化して、子どもどうしを切り離してしまう危険があるということです。これは、学習の変質をもたらすものであり、学習活動における自己責任論ともいえるものではないでしょうか。
こうした危険性を直視する必要があります。

3.矛盾に満ちた新学習指導要領路線からの修正

上述した問題点があるからこそ、答申も「個別最適な学び」一辺倒の記述はしていません。答申は、「個別最適な学び」とセットで「協働的な学び」を強調しています。答申は、「新学習指導要領の着実な実施」と述べていますが、中でも、授業改善については、「主体的・対話的で深い学び」を強調しています。「主体的・対話的で深い学び」をその言葉通り受け止めれば、それは、現場での実践が追求してきた授業のあり方と重なるものであり、「個別最適な学び」とは相いれないものです。

答申の本音は、新学習指導要領路線からGIGAスクール構想を中心とするICT教育路線への修正をはかろうとするものですが、まだ、新学習指導要領が全面実施された年度の途中であることも意識し、新学習指導要領を全面的に否定することはできずにいます。その姿が、本来相いれない「個別最適な学び」と「主体的・対話的で深い学び」が共存しているのは、そうした矛盾のあらわれにほかなりません。

4.実態を無視した教科担任制の導入

答申は、多くのマスコミも報道したように、小学校高学年への教科担任制の導入に言及しました。しかしこれには、大きな問題があります。

第1は、子どもの発達段階からみて、問題があるということです。これまで日本では、小学校段階では学級担任制、中学校以降は教科担任制がとられてきています。なぜ小学校で学級担任制がとられてきたかといえば、それは、小学校段階の子どもたちにとって、学習集団であると同時に生活集団である学級を教科で切り離すのではなく、子どもの生活と学習を一体的にとらえることができる学級担任制が望ましいと考えられてきたからにほかなりません。とりわけ思春期前期の入り口にあたる小学校高学年の子どもたちに対する指導は、大変デリケートな配慮が必要であり、生活集団と学習集団が一体である学級集団であるからこそ、そうした配慮が可能となります。そのことを考慮に入れない小学校高学年の教科担任制導入は、現場に大きな負担を強いることとなります。

第2は、学級担任を前提として算出される教職員定数では、教科担任制はできないということです。
義務標準法は小学校での学級担任制と中学校での教科担任制を前提に教職員定数を定めています。たとえば、小学校で6学年すべて3学級で、全校18学級の場合、乗ずる数は1.2であり、教員数は21.6≒22人となりますが、中学校で3学年すべて6学級で18学級の場合は、乗ずる数は、1.557であり、教員数は、28.0≒28人となります。同じ学級数で、小学校の教員数は中学校より6人も少ないのであり、これで教科担任制を導入するというのは、教員の負担増となるのは、誰が見ても明らかです。

ただでさえ教職員は、過労死ラインを超える長時間・過密労働の実態に置かれており、教科担任制によって、さらに負担を強いることは、子どもの教育にとって大きな否定的影響を及ぼすこととなります。
教職員定数を抜本的に見直すというのならば、まだ議論の余地はありますが、現在の教職員定数をそのままにして、小学校高学年の教科担任制を導入することは、百害あって一利なしと言わなければなりません。

5.私たちの側に引き寄せ、現場の教育活動で活用可能ないくつかの記述

一方で答申には、私たちが現場で活用できるいくつかの記述が散見されます。

第1は、学校の役割についてです。
答申は、「新型コロナウイルス感染症の感染拡大を通じて再認識された学校の役割」という項を起こして、「子供たちや各家庭の日常において学校がどれだけ大きな存在であったのかということが、改めて浮き彫りになった」と述べ、「学校は、学習機会と学力を保障するという役割のみならず、全人的な発達・成長を保障する役割や人と安全・安心につながることができる居場所・セーフティネットとして身体的、精神的な健康を保障するという福祉的な役割をも担っていることが再認識された」と述べています。しかも、それらを「日本型学校の強み」とまで述べているのです。そうした学校は、教科、教科外の教育活動全体をとおして、子どもたちの「人格の完成」をめざし、営々と積み上げられてきた現場の教育実践、教育活動の総和にほかなりません。私たちは、答申も認めざるを得ない、こうした学校の果たしている役割に確信を持ち、これを活用し、子どもたちの実態に即した教育活動をさらに前進させていく必要があります。

また、答申は、「学級づくりの取組や、感染症対策を講じた上で学校行事を行うための工夫など、学校教育が児童生徒同士の学び合いの中で行われる特質を持つ」「学校の授業における学習活動の重点化や次年度以降を見通した教育課程編成といった特例的な対応がとられた。このように我が国の学校に特徴的な特別活動が、子供たちの円滑な学校への復帰や、全人格的な発達・成長につながる側面が注目された」とも述べています。これらは、『おおさかの子どもと教育』100号で紹介したように、コロナ禍の困難な状況であっても、現場ですすめられてきた「手探りの実践」が子どもたちの成長・発達を助ける重要ないとなみであったことを示しており、ここにも注目する必要があり、現場での実践を前進させるうえで活用できるものであると考えます。

第2は、ICTの位置づけについてです。すでに述べたように、答申の基本性格は、ICTによる子どもと教育の管理・支配にありますが、仔細に見てみるといくつかの活用できる記述も見受けられます。その1つは、ICT活用に関する基本的な考え方について、「ICTを活用すること自体が目的化してしまわないよう、十分に留意することが必要である。直面する課題を解決し、あるべき学校教育を実現するためのツールとして、いわゆる『二項対立』の陥穽に陥ることのないよう」と述べるとともに、子どもたちに対しては、「児童自身がICTを『文房具』として自由な発想で活用できるよう環境を整え、授業をデザインすることが重要」と述べています。一人1台のタブレットが配布されれば、今後、地教委などをとおして、あたかもICTを使うことが自己目的であるかのような押しつけがおこなわれる可能性がありますが、答申のこの文言を活用すれば、そうした押しつけを打ち破ることが可能であると考えます。

第3は、少人数編成への言及です。
答申は、コロナ禍での学校の実態について、「一クラスあたりの人数が多い学校では、クラス全員で一斉に授業を行おうとすれば、感染症予防のために児童生徒間の十分な距離を確保することが困難な状況も生じている」という認識を示し、「教室環境や指導体制等の整備を行うことが必要」としています。また、「『新しい生活様式』を踏まえた身体的距離の確保に向けて、教室等の実態に応じて少人数編成を可能とするなど、少人数によるきめ細かい指導体制…検討を進め」とも述べています。「少人数学級」という言葉を使うことは注意深く避けつつも、コロナ禍が浮き彫りにした1学級当たりの子どもの数が多すぎるということは認めざるを得ません。

この間、父母・国民、教職員などの粘り強い運動の結果、40年ぶりに義務標準法が改定され、小学校の35人学級が5年がかりという不十分さはあるものの実現した到達点をふまえ、さらにそれを前進させる足掛かりとして、この答申を活用することも可能ではないかと考えます。

おわりに

今後、さまざまな場で、この答申について議論されることだと思います。教文センターもコロナ禍のもとで延期されている研究会が再開されたら、それぞれの研究会の課題に引き寄せてこの答申を議論することが求められていると考えます。その際、このコメントが議論の一助となれば、大変うれしく思います。拙文を読まれたみなさん。ぜひ、ご意見をお寄せください。

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大阪教文センターだより153号

大阪教育文化センターだより153号の内容

2021年3月22日発行

【内容】
「すすむ少人数学級」に逆行!
学校統廃合・施設一体型小中一貫校
新版パンフレットQ&Aの概要


これからの研究会
第31回共同研究集会(教育課程づくり集会 大教組共催)

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大阪教文センターだより152号

大阪教育文化センターだより152号の内容

2021年2月22日発行

【本文はコチラ】

【内容】
●中教審答申をどうみるか
中央教育審議会「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~(答申)」について
1.ICTによる国民管理の一環として、子どもと教育の管理をねらう
2.「個別最適な学び」の名のもとに、学習の変質をねらう
3.矛盾に満ちた新学習指導要領路線からの修正
4.実態を無視した教科担任制の導入
5.私たちの側に引き寄せ、現場の教育活動で活用可能ないくつかの記述

●新版「もうやめよう!「小中一貫」・学校統廃合Q&A」パンフレット
●卒業生に贈る詩
●研究会
●教育課程づくり集会(3月28日)

【読者の感想】センターだよりNo.152を拝読しました。中央教育審議会の答申が分かりやすく書いてあり、ICT教育と教科担任制のことが掴めました。
残念ながら、町は、強引に小学校を統合してしまいました。小規模校を統合する理由に「多くの他者と切磋琢磨」「主体的な学びの実現」と教育委員会は、何度も言ってました。その矛盾を教育委員会に質問したいと思います。
新版「もうやめよう!小中一貫、学校統廃合Q&A」を10冊注文したいので、お願いします。

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大阪教文センターだより151号

大阪教育文化センターだより151号の内容

2021年1月19日発行

①共同と連帯の力で困難を乗り越え,教育の未来をひらく年に
②四則計算で統計 11月住民投票
 前回より投票数増えた「賛成多数」行政区で 反対票が増えた
③阪神淡路大震災26年・東日本大震災から10年
 子どもの作文と詩を読み直す
④これからの研究会 最新情報は新着記事でご確認下さい。

▼バックナンバー
【150号】第3回教育講座の概要と感想(一部)
    「大阪市廃止」住民投票結果
【149号】第2回教育講座の概要と感想(一部)
【148号】学年1クラス増で30人学級 (関連 小中一貫・学校統廃合)
【147号】授業時数問題Q&A
【146号】第1回教育講座の概要と感想(一部)

 

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大阪教文センターだより145号 提言の要約と補足

大阪教育文化センターだより145号(2020年6月9日)より抜粋

提言の要約と補足

 6月の学校再開に伴い,大阪では42日間の夏休みを10日間に縮減,文科省の通知に反してあくまで授業の標準時数確保にこだわった通知を出しています。
 ここでは,あらためて各学校での教育課程づくりへの参考となればと思い,大阪教文センターが出した4つの提言内容の要約(箇条書き)と若干の補足を行いたいと思います。なお,くわしい文面や授業計画等の資料については直接HPをご覧ください。また,提言に関して寄せられた感想も一部付記しておきます。

【提言】学校再開に向けた,今だかつてないとりくみを
―子どもたちにとって大事なことを絞り込んで,教育内容の大胆な削減を―(4月27日)

子どもにとって何が必要か,
学習指導要領に子どもを合わせない 単純に行事を削減しない
※神戸新聞社説(6月1日)には『忘れてはならないのは、子どもの心のケアである。現場からは「阪神・淡路大震災当時の状況に似ている」との声が上がっている』とありました。ならば,それぞれの学校での子どもの実態を鋭く見つめていく必要があります。

①学校再開へは子どもとの出会いを大切に,子どもをまるごと受けとめよう
子どもはこの間,どんな思いで過ごしてきたのかを想像し,「よく来たね」と子どもをまるごと受けとめたい。

②今こそ教育の専門家としての教師の力の発揮を
教師はいつも子どものことを考えて教育活動を計画している
・子どもに心を寄せ,あたたかいまなざしで子どものケアを
 不安の中でも子どもたちは頑張っている。学校再開後はあたたかいまなざしで

・教科学習では大胆に単元を削減し,子どもの学習負担を軽減する。次の学年に「持ち越し」の単元も視野に入れる。
 「年間計画」とまでいかなくても,「最低限これだけは教える」という単元を3〜5に絞り込み,優先順位をつけて授業をする。積み残した単元は削減するか,次年度以降の「持ち越し」に。時間をかけてじっくりと授業をすることで『主体的に深く」学ぶことができます。

 また「密」とされる水泳の授業でも,人員を確保しながら小学校は1クラス,中高は男女別に授業する(他方は体育館)などの工夫も考えられるのではないでしょうか。

・教科外活動では安易に行事の削減はおこなわない。行事等は「総合」に位置づける。学年会や教科部会,生徒指導部会,児童会・生徒会担当者会議で縦と横の繋がりをつくってすすめる。
 学習指導要領通りでは子どもも教師もパンク
 子どもたちは,教科学習のみで成長するのではありません。

③具体的なとりくみ
高校入試・大学入試の出題範囲の削減
年間計画なら,9月再開(23週)を想定した計画で標準時数の66%を確保。
※くわしくはそれぞれの授業計画を参照。

④父母・保護者の理解と合意を
⑤教職員の合意づくりを
⑥今こそ,校長のリーダーシップ発揮を
⑦いわゆる「ネット授業」について
 授業は教師と子どもたちとの双方向・対話的関係でつくりあげるもの
⑧大切なのは,子どもを全力で受けとめること

■提言の内容はコチラ■

【追加提言】休校中の登校日の対応と学習課題について(5月13日)

①登校日は子どもたちとの最初の出会いであり,子どもの様子を見るチャンス。新しい先生は,自己紹介からたのしく,交換日記などで伝えあい。
久しぶりの登校だからこそ,子どもの気持ちを思いやり,向き合う。そのことを職員室で語り合えば,課題も見えてくる。
②休校中の学習課題。家庭学習は教育の専門家としての判断で。課題は前学年の復習を中心に(前学年で扱った教材の音読や漢字復習も)。通信を通して子どもや保護者へのメッセージとともに課題を。
※以下,COVID-19関連動画と資料,算数・数学プリントはHPで。

■追加提言の内容はコチラ■

【追加提言2】「オンライン授業」について
授業−教師と子どもの息づかいが感じられる空間だからこそ(5月18日)

授業は対話的・応答的関係で行われる「生きもの」。
「オンライン授業」の問題点=「オンライン授業」万能論は危険。双方向的な学びは困難。
子どもたちは集団として学び合う。
(例)授業「ごんぎつね」(4年)から考える。
教室は子どもたちと教師がつくりあげる,そこにしかない文化的空間。
授業=子どもの可能性を引き出し発展させる過程
授業の中でこそ発揮される教師の専門性

■追加提言2の内容はコチラ■

【追加提言3】小学6年 中学3年の教育課程について(5月26日)

①文科省は,「指導内容を複数学年にわたって教育課程を編成」といっている
小6,中3の除外はあり得ない。
②教育課程の編成を行うのは学校
 小中連携をふまえて「持ち越すことも」
 高校入試・大学入試等へは出題範囲の削減を

■追加提言3の内容はコチラ■

【追加補足】文科省の「学びの保障」対策

大阪教育文化センターだより145号の発行後,6月5日文科省から「学校の授業における学習活動の重点化に係わる留意事項等について」等の通知が発表されました。また,『「学びの保障」総合対策パッケージ』も公表しました。以下の部分で,それぞれの学校の実情と比較しながら,文科省から発表されたものを素直にみてみましょう。

きれいに見るのはコチラ(PDF)

■文部科学省『「学びの保障」総合対策パッケージ』■(令和2年6月5日)p5より

上の中学3年生の例からわかることは,
①夏休みが8月1日〜23日の23日間
②2学期からは,週2回の7時間授業と月1回の土曜授業(午前)
③限定的ではあるものの,運動会・修学旅行・文化祭・校外学習がある(学校行事等も含めた学校教育ならではの学びを大切にしながら教育活動を展開)
④脚注には標準時数を「下回っても,そのことのみで法令違反とはならない」とあり,また最終学年以外は「特例的に次年度以降を見通した教育課程編成を可能」(積み残し可能)とある
⑤これらは,「実際には,地域の感染状況や児童生徒や学校の実情に応じて各自治体及び学校で判断」とある。学習指導要領には,教育課程の編成は学校にあることが記述されている。
いろいろと問題のある通知ですが,以下の内容も含めて使える部分は使って,それぞれの学校で当面の教育課程の編成を考えてみませんか。

【注】以下の一般社団法人教科書協会のサイトには、「新型コロナウイルス感染症対策による学校の臨時休業への対応」として
[1]前年度3学期相当の学習内容への対応
[2]新年度4月以降の学習内容の指導への対応
があり,各教科とも標準授業時数の6〜7割程度で年間授業計画が記載されています。

■教科書を十分に活用した補充のための授業等のための資料のリンク集(一般社団法人教科書協会)■(文科省HPより)

■学習活動の重点化等に資する年間指導計画参考資料■(教科書協会)

■次ページは【提言】の感想■

  

大阪教文センターだより144号(4月24日)新年度ご挨拶

大阪教育文化センターだより144号(4月24日)より

新年度のご挨拶

戸惑いと不安と恐れのなかに希望を見いだす

大阪教文センター代表 福田敦志

「未知の状況」のもとで

 この4月から全面実施となった新しい学習指導要領をめぐる議論のなかで、「新しい時代に必要となる資質・能力の育成と、学習評価の充実」が肯定的な立場からも批判的な立場からも幾度となく言及され、論議されてきた。そのなかでもとりわけ、「新しい時代に必要となる資質・能力の育成」を構成する「学びを人生や社会に生かそうとする学びに向かう力・人間性等の涵養」「生きて働く知識・技能の習得」「未知の状況にも対応できる思考力・判断力・表現力等の育成」の三位一体の提起は、多様な論議を巻き起こしてきた。
 いまわたしたちは、この提起を主導した人びともおそらくは想定していなかったであろう、「未知の状況」のなかに居る。
 この「未知の状況」下において、さらには緊急事態宣言が発出される状況下において、わたしたちは「専門家」たちから発せられる情報(時にそれは、朝令暮改でさえあるものであるが)を受けとめることに精一杯となり、その情報を疑うことなく「主体的」に振る舞うことが求められ、「対話的」に確かめ合うことは「濃厚接触」として咎められ、本当に大切にすべきことは何であるかを「深」く考える機会を奪われているかのようである。

私たちの眼差しに映るものは

 知らず知らずのうちに自分の頭で考えることを放棄してしまうような状況に陥ったとき、心ある教師たちは、身近な生活現実を見つめるまなざしを研ぎ澄ませ、そこに潜む問題を的確に表現する言葉を探し求めながら、目の前の苦境と歴史的かつ社会的な状況とを結びつけ、為すべきことを見いだしてきた。
 翻って、わたしたちの身近な生活現実を改めて見つめ直そうとしたとき、わたしたちのまなざしには何が映るだろうか。わたしたちの耳には、何が聞こえてくるだろうか。
 それは、働く権利を奪われ、生活の糧を奪われた人びとの怒りや嘆きであろうか。
 それは、親密圏のなかで逃げ場を失い、恐怖に震える声であろうか。
 それは、過剰な責任を一身に引き受けるも、その責任を背負うための手立ても休息も得られないまま疲弊していく、保育士や学童保育の指導員たちの声なき声であろうか。
 これらの声のなかから、子どもたちの声は聞こえてくるであろうか。子どもたちは、声を発することすら奪われてはいないだろうか。声として発せられることなく、誰にも受けとめられない思いは、子どもたち自身の心と身体を傷つける刃となってはいないだろうか。

今 大切にすることは

 子どもたちが生きる現実への認識が深まれば深まるほど、いま、何をこそ大切にしなければならないかが明確になってこよう。少なくとも、「いま、大切にしなければならないことは何であるか」を議論する機運を意識的に高めていくことは可能であろう。それゆえに、この「未知の状況」は千載一遇の好機である。いまこそ、民主主義を現実に展開していく好機である。
 子どもたちと再会が果たされた際に教師として、学校としてなすべきことは何であるかを吟味し、合意していく時間と空間を意識的に創りだしていこう。その先にこそ、子どもたちの存在を歓待し、祝福する学校が生み出されてこよう。

学校を自分たちの知恵と力で創りはじめる年となるよう

 「2020年は、子どもたちと教師たちが生きるに値する学校を自分たちの知恵とちからで創りはじめた記念すべき最初の年であった」-後世の教育史にそう描かれることも、夢物語ではない。今年度が終わる頃には、学校づくりの魅力的な実践報告が溢れるほどになされるような、そんな一年を仲間と共に、子どもたちと共に、地域の人びとと共に創りだしていこう。
 そうした実践を支え、励まし、理論化していく拠点として大阪教育文化センターもさらに発展していくという覚悟をここに記し、新年度を迎えたみなさんへのご挨拶と代えさせていただきたい。今年度もよろしくお願い申し上げます。

【内容】
新年度ご挨拶       大阪教育文化センター代表 福田敦志
第30回大阪教文センター共同研究集会の感想「子どもの存在そのものが希望」
緊急事態宣言下の自粛要請の中で

教育講座(5月16日 13時半) 緊急事態宣言後も休校が続く「こんなときだからこそ,子どもをまるごと受け止めたい〜今年の学級づくりと授業づくり〜」本講座は延期となりました

 

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大阪教文センターだより 143号(3月26日)

大阪教育文化センターだより143号(3月26日)より

安倍首相による全国一律休校要請で、子どもも教職員も本当に振り回されました。今は学校は少し落ち着いているのかもしれませんが、先の見通せない不安もあると思います。

特に休校措置によって削減された授業日数をどう補充するのか、職場でも話題になっているのではないでしょうか。「来年度、土曜日が授業日になるのでは?」「夏休みが短くなる?」などということも取りざたされていませんか?

しかし、文部科学省は2019年3月29日に初等中等教育局長名で出した通知の中で、以下のように述べています。

『標準授業時数を踏まえて教育課程を編成したものの災害や流行性疾患による学級閉鎖等の不測の事態により当該授業時数を下回った場合,下回ったことのみをもって学校教育法施行規則に反するとされるものではなく,災害や流行性疾患による学級閉鎖等の不測の事態に備えることのみを過剰に意識して標準授業時数を大幅に上回って教育課程を編成する必要はない』
【文科省:平成30年度公立小・中学校等における教育課程の編成・実施状況調査の結果及び平成31年度以降の教育課程の編成・実施について(平成31年3月29日)】

また、同年3月18日の文部科学事務次官通知では、「各学校の指導体制を整えないまま標準授業時数を大きく上回った授業時数を実施することは教師の負担増加に直結するものであることから、このような教育課程の編成・実施は行うべきではない」とも言っています。

 それでも,教科書を終えられていない,残された授業内容をどうするのか,悩んでいることもあると思います。単純に考えると,休校によって失われた1ヶ月近くの授業をどうするか,ということになりますが,卒業式などの行事やその準備などを除けば,休校に伴う授業日数は10日間ほどです。教科の授業に限って言えば,50〜55時間ほどです。しかも学年末ということもあって,残された教科の内容はそう多くはないと思います。
でも、それを機械的に授業時数に上乗せしてしまうと、子どもの学習負担も、教師の負担も大変になります。だからこそ、知恵を出し合って工夫してみませんか?

小中学校の週あたりの授業時数

こんなことも工夫できるのではないでしょうか?

① たとえば小学校3年生では新しく割り算が出てきますが、そのためには2年生で習った、かけ算がしっかりと身についていなければなりません。そうでないと割り算の指導にとても時間がかかってしまいます。1あたり×いくつ分=全体の量というかけ算の意味がわかり、九九を自在に使いこなせているか、しっかり子どもの実態をつかんだうえで、かけ算に一定の時間をとって、指導することが大切だと思います。回り道のように見えますが、これによって後の割り算の指導時間をうんと短縮することができ、子どもの理解もすすみます。2年生での掛け算の復習と3年生の学習の土台をつくる、まさに一石二鳥のとりくみではないでしょうか?

② また、算数のスパイラルを利用して,その単元学習の前に未学習分野を簡単に済ませるような工夫もできると思います。

③ 国語でどうしても教えたい単元(「大造じいさんとがん」などの文学作品)を残している場合,次年度の学年会で話合い、たとえば調べ学習の単元を学活や総合に回し,時間を生み出すこともできるでしょう。

④ 国語(4年)の都道府県の漢字をまったくやらないわけにはいかないと思いますが、中学校でも学ぶのですから、思い切って中学社会(地理)にお願いするつもりで、小学校4年生の段階で何が何でも覚えさせることはないと思います。子どもたちに「中学でまた勉強するからね」と言っておいてあげれば、安心できると思います。

⑤ 「小中一貫」や「小中連携」を活用することも可能ではないでしょうか?とかく無駄な会議をやらされることも多い「小中一貫」ですが、これを活用して、例えば、小学校で教え残しがあった場合、小学校で無理することなく、中学校で指導してもらうようお願いし、合意をつくることもできるのではないでしょうか?それは、子どもの実態をふまえた本来の意味での「小中連携」になると思います。

まだまだ工夫できることがあると思います。新学習指導要領全面実施だからこそ、こうした自前の教育づくりをすすめてみませんか?こうしたとりくみをおこなううえで、『おおさかの子どもと教育98号』「新提案 コレが教職員の働き方」のP4~P9が参考になると思います。ぜひ、目を通してみてください。(大阪教育文化センター事務局)2020年3月26日

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