【授業時数Q&A】ちょっと待った!

【授業時数問題Q&A】
ちょっと待った! 授業時数は足りている!
行事の削減,夏休み等の大幅削減は必要なし

2020年7月8日 大阪教育文化センター事務局
8月3日追加

Q 授業時数は,本当に足りているのですか?

A 本当です。
 教科書のみを使い,文科省の要請で教科書会社がつくっている「重点化」を行うだけでも,授業時数は確保できます。
 文部科学省は6月5日,「学校の授業における学習活動の重点化に係る留意事項について」という通知を出しました。その内容は大雑把に言うと,小学校6年,中学校3年は学校で教える内容を2割削減するというものです。

■学習活動の重点化等に資する年間指導計画参考資料■(教科書協会)

 これに基づき,各教科書会社が「重点化」という名の「削減案」をつくっています。

 それを見ると,6年算数では年間標準授業時数は175時間ですが,教科書は175時間で編集されていません。東京書籍の教科書では155時間で編集されています。これが「重点化」によって,107時間としています。これは標準授業時数の61%ほどになります。

短縮しなくても十分確保できる

 大阪の場合,多くの学校が6月15日から再開されました。従来の夏休みや祝日等を除くと,残り31週分の授業日があります。
 つまり,175×31/35=155時間の授業時数となります。だから,夏休みや冬休み等を短縮しなくても,ましてや7時間授業や土曜授業をしなくても,107時間の授業時数は十分確保できます。
 国語の場合も同様です。標準授業時数175時間に対し,光村図書の指導書では配当時間が145時間,「重点化」によって119時間ほどになっています。

【付記】文部科学省は「新型コロナウィルス感染症対策のための臨時休業により,学校教育法施行規則に定める標準授業時数を踏まえて編成した教育課程の授業時数を下回ったことのみをもって,学校教育法施行規則に反するものとはされない」「令和3年度又は令和4年度までの教育課程を見通して検討を行い,学習指導要領において指導する学年が規定されている内容を含め,次学年又は次々学年に移して教育課程を編成する」(5月15日通知 第265号)と記しています。
これは,「標準時数を下回っても学校教育法施行規則に反しない,各学校は今年度の学習内容については2〜3年かけて教育課程を編成すればよい」ということです。

Q 中学校はどうでしょうか?

A 中学校も大丈夫です。中学3年生を見てみましょう。(1,2年生の場合も同様)

 表のAは指導書に掲載されている年間授業計画の授業数(平均)です。Bは「学習活動の重点化」に伴った授業時数です。Bは大阪教文センターの「提言」で示した時数(9月再開〜2月の23週分)とほぼ同数です。
 表中央や右の「短縮なし」は6月中旬〜3月卒業式まで,夏休み短縮なし,7限授業や土曜授業を考えていない場合(中3は30週 中1中2は31週)の時数です。これだけ見ても十分に授業時数は確保できます。

現場は「詰め込み」の年間計画に

Q それでは,夏休みなどを短縮したりすると「やりすぎ」になるのですか?

A そうです。以下の表を見てください。6月中旬以降学校が再開し,30日以上夏休みを短縮した(大阪の場合)中学校の試算です。これでは例年の授業時数と何ら変わりなく,9ヶ月ほどで1年間の授業を詰め込むということになります。

 このように「新しい生活様式」といいながら,これまでの「学習の遅れ」を取り戻す・標準授業時数を確保するべく,「コロナ以前」にもどり,これまで以上の詰め込まれた時間割となっている学校が多いようです。これでは人類が新たな感染症とどう向き合っていくのか模索しているときに,逆行する行為です。

年間計画は柔軟な対応を

Q でも,今から夏休みの短縮をやめるというのも難しいでしょうし,どうすればいいですか?

A 生まれてきた余裕の時間を活用して,子どもたちとゆったりと学ぶことを追求してはどうでしょうか。教育にとって一番大事なのは子どもです。そして先生は教育の専門家です。だから「授業時数確保」の名の下に,子どもたちに無理やり教科書の中身を押しつけるのではなく,子どもの実態・様子をじっくりと見て,指導に軽重をつけることが大切です。それができるのは,専門家としての教師です。

Q 具体的にはどうしたらいいのでしょうか。

A 運動会や文化祭等の学校行事が削減されたとしても,時間のゆとりを使って学級・学年で文化行事やレクリェーションにとりくむことも可能です。それが「自前の教育課程づくり」です。
 そして学年単位なら子どもたちとともに企画立案段階から考えていくことで子どもの自治意識も育っていきます。
 また教科の授業が標準時数の6割程度で計画できるなら,残りの時間を精選した学習内容にじっくりと時間をかけることもできます。そうすることで「主体的で」「深い学び」を体験できます。

 【追加】もうひとつ。子どもの発達段階に応じて,道徳や「総合」「探究」の時間や教科横断の時間を使って,新型コロナウィルスや感染症に関する学習を子どもたちとともに手探りで調べ学習を進めることもできます。現在わかっている新型コロナウィルスの正体や予防の方法,感染症と人類の歴史,科学や医学の進歩,感染が広まる中での人間の行動や道徳性などを学習することも可能です。

 例えば,ナイチンゲールを調べようとしたら,統計学や戦争と感染症の関連なども学習できるチャンスともなります。それぞれで調べた内容を発表し合うのもいいでしょう,調べた内容をさらに深く学習することも可能です。そしてポストコロナで私たちの生活がどう変わっていくのか,人類の進む道を議論し,その結果を何らかの形で報告することもできます。

 ぜひ,「提言」(4月27日)の精神を生かした学校づくりを,足もとの学級づくりから始めませんか。

【付記】文部科学省「学びの保障」の方向性
 文科省5月15日通知の『新型コロナウィルス感染症の影響を踏まえた学校教育活動等の実施における「学びの保障」の方向性等について』を要約すると,

①行事等を含めた学校ならではの学びを大切にする
②Withコロナをふまえて学習内容や指導方法の柔軟な見直し
③授業時数は子ども・教職員の負担軽減も配慮する

となっています。