【提言】学校再開に向けた、いまだかつてないとりくみを

いまだかつてない事態には,いまだかつてないとりくみを
―子どもたちにとって大事なことを絞り込んで,教育内容の大胆な削減を―

2020年4月27日 大阪教育文化センター事務局
4月29日更新 5月8日算数 6月10日要約と補足追加

■5月26日【追加提言3】小学6年 中学3年の教育課程について■

大阪教育文化センターだより145号(6月9日)
■学校再開への4つの提言 要約と補足■

§0.はじめに

 新型コロナウイルスにかかわる休校期間は,きわめて長期にわたるものであり,子どもたちも,父母・保護者のみなさんも,先生方も,いまだかつて経験したことのない事態となっています。いつ学校が再開できるのだろうか,という不安とともに,学校再開後の教育活動はどうなるのだろうという心配もあります。

子どもにとって何が必要か

 このような,いまだかつて経験したことのない事態に対して求められる教育活動は,従来の枠組みにとらわれていては,対応できません。従来の枠組みを超えた「いまだかつてないとりくみ」が必要です。その際,もっとも大事なことは,子どもにとって何が必要かであり,そのことを中心に据えてとりくむことが何としても求められると考えます。

学習指導要領に子どもを合わせない

 そのためには,新学習指導要領にとらわれるのではなく,子どものための教育課程づくりこそが重要です。マスコミ報道では,もう今から「夏休みをなくす」と言っている自治体の長も生まれてきているようですが,とんでもないことです。そんなことをすれば,子どもを追い詰めてしまうだけです。学習指導要領に子どもを合わせるのではなく,子どものための教育をどうつくりあげるかが,もっとも大切にしなければなりません。
 教職員組合は,新学習指導要領を押しつけないことを教育行政に求めましょう。そして,同時並行で学校でのとりくみをすすめましょう。

単純に行事を削減するのではなく

 学校でのとりくみでは,教科指導においては,その学年の子どもたちにとって,本当に大事な中身は何かを考え抜き,それに絞り込んで教えること,教科外活動においては,単純に行事を削減することなく,行事もふくめ,子どもの成長・発達にとって大事な活動にしっかりとりくむことが必要だと考えます。
 その立場から,以下,いくつか提案したいと思います。各学校での積極的な検討を心からお願いします。

■「戸惑いと不安と恐れのなかに希望を見いだす」■(参考)

【追加提言】休校中の登校日対応と学習課題についてはコチラ

【内容】
§1.いつにもまして,子どもとの出会いを大切に―子どもを丸ごと受け止めよう
§2.今こそ教育の専門家としての教師の力の発揮を
(1)子どもに心を寄せ,あたたかいまなざしで,子どものケアを
(2)教科学習では,大胆に単元を削減し,子どもの学習負担を軽減する
(3)教科外活動では安易に行事の削減などはおこなわない
(4)学年会や教科部会,生活指導部会,児童会・生徒会担当者会議で縦と横のつながりをつくって
§3.具体的なとりくみ
(1)9月から授業再開を想定,受験教科の範囲削減を文科省,都道府県教委へ要望
(2)9月再開を想定した計画  [1]小学校 [2]中学・高校の場合
§4.父母・保護者の理解と合意を
§5.教職員の合意づくりを
§6.今こそ,校長先生はリーダーシップを発揮して
§7.いわゆる「ネット授業」について
§8.おわりに

§1.いつにもまして 子どもとの出会いを大切に―子どもを丸ごと受け止めよう

 安倍首相による全国一律休校要請によって,子どもも教師も2019年度は学年末にふさわしい締めくくりができない状態におかれました。それに引き続く「緊急事態宣言」によって,2020年度の始まりも,新しい年度の始まりにふさわしい出会いができない状態におかれています。

子どもはどんな思いで過ごしているのか

 子どもたちはこの長い休みの間,どのように過ごしているのか,どのように過ごしてきたのか,家庭訪問もなかなかできないもとで,実態そのものもなかなか把握できていない状況におかれているのではないでしょうか。貧困家庭の子どもは,給食もないなかで,ちゃんと食べることができていたのか,ほとんど家の中で過ごしていた子は,大きなフラストレーションをため込んでいたのではないか,長期にわたる休校で,登校拒否・不登校が増えるのではないか,など先生方も不安がいっぱいだと思います。

「よく来たね」と子どもをまるごと受け止めたい

 5月7日(※)に子どもたちと出会えるかどうか,なお不確定要素をもっていますが,こんな状況だからこそ,いつにもまして,子どもたちとの出会いを大切にしたいものです。(※大阪府は5月7,8日も休校と決めたようです 4月27日夕方現在)

 「よく学校へ来たね」という思いを全面に,子どもを丸ごと受け止めたい。子どもの表現を全力を込めて受け止めたい。今年だからこそ,こんなときだからこその「学級びらき」を工夫したいですね。ともすれば,大幅に削減された授業時数のもとで,早く教科の授業を始めなければという気持ちに駆り立てられるのは無理のないことですが,ちょっと立ち止まって,こんなときだからこそ,焦らずに,あわてずに,教室が子どもたちの居場所となるように,教師と子どものあたたかい関係を築けるよう,心を砕いてみましょう。そして,子どもたちどうしのあたたかい関係を築けるよう,子どもたちの心と心をつなぐことを大切にしたいですね。

§2.今こそ教育の専門家としての教師の力の発揮を

 私たち教員は,「私は教育の専門家だ」といつも意識して教育活動をすすめているわけではありません。急に「専門家としての教師」と言われて,戸惑う先生方もいらっしゃるかもしれません。

教師は子どものことを考えて教育活動を計画している

 でも,ちょっと考えてみてください。たとえば,先生方が授業を構想するときには,「この単元で一番大切にしなければならないことは何だろう,この文学教材では,子どもたちにこんなことを読み取らせたいな」と子どもの顔を思い浮かべながら,考えているのではありませんか。また,こんな発問をしたら,子どもたちが活発に発言できる授業になるのではないか,と考えているのではありませんか。

 教科外活動では,運動会で子どもたちが力を合わせてとりくめるには,どんなことが必要だろうか,子どもたちが感動する文化祭をつくりあげたい,子どもたちの笑顔がはじけるお楽しみ会にしたい,などと考えてとりくんでいるはずです。

 それが,教員の専門性に他なりません。その専門性を発揮して教員は教育活動にとりくんでいるのです。そのことが教員は教育の専門家であることを示しています。こんなときだからこそ,私たちのもつ専門家としての力を大いに発揮しましょう。
 では,その力をどのように発揮すればよいのでしょう。次から考えていきたいと思います。

(1)子どもに心を寄せ あたたかいまなざしで 子どものケアを

 休校中,子どもたちは,さまざまな過ごし方をしたことでしょう。多くの子どもたちは,友だちにも会えず,いっしょに遊ぶこともできず,仕方がないので,スマホやゲームで寂しさを紛らわせざるをえない毎日だったのではないでしょうか。父母・保護者のみなさんも,自分自身の仕事の悩みを抱えながらの子どもへの対応で,おそらく疲れておられることと思います。

不安の中でも子どもたちは頑張っている

 何よりこのコロナ禍で,大人もふくめてですが,「人とかかわること=危ない」という風潮がつくられていることが大変気になります。何気ない会話をしたり,親しい人と食事をしたりする,普段なら当たり前のことを控えなければならない状況は,大人でさえ追い詰めていくものです。

 ましてや子どもの場合,大人以上に寂しいし,怖いし,不安なのだろうと思います。普段なら,何か心配事があったとしても,友だちと遊んだりしていると,その心配が吹っ飛んでいくこともありますが,長い時間家で一人で過ごしていると不安や心配事が増大してしまいます。でも,子どもたちはがんばっているのです。

学校再開後は あたたかいまなざしで

 子どもが成長・発達するうえで,人に触れ合うこと,そのときに漂う雰囲気や空気感はとても大切なものです。この休校中も,先生方は,そうした子どもたちに思いをはせ,できる限りのとりくみをすすめられたことと思います。

 学校が再開されたら,中には「荒れ」る子どもも出てくるかもしれません。登校しぶりの子も生まれてくるかもしれません。余裕をもって,子どもを見ることが求められると思います。そして,何よりもあたたかいまなざしを注ぎましょう。それも教師の専門性の重要な部分です。どの子も,何らかの形で傷ついているのです。その子どもたちに心を寄せ,しっかりケアしていきましょう。

(2)教科学習では大胆に単元を削減し 子どもの学習負担を軽減する

 教科学習では,その学年の子どもたちに本当に身につけさせたい力とは何か,考え抜きましょう。そして教科書を読み,子どもたちに「これだけは」という単元や教材を選りすぐりましょう。そうすれば,逆に,これは削除しよう,軽く扱おう,という単元や教材が見えてきます。そういう単元や教材は,思い切って大胆に削減しましょう。

次の学年で教えることも視野に

 また,次の学年で力を入れて教えてもらおうという単元や教材がでてきます。それは,次の学年でしっかり指導してもらうようにしましょう。6年生の場合は,特に教科としての「外国語」などは,中学でしっかり指導してもらうこととし,小学校では,「英語嫌いをつくらない」を目標にとりくみましょう。
 そうして,選りすぐった単元と教材で,今年度の教育計画を組み立ててみましょう。どのような計画になるかは,後に具体的に例示したいと思います。

そもそも授業時数の確保が必要では?と思う方はコチラを

(3)教科外活動では安易に行事の削減などはおこなわない

 子どもたちは,教科教育だけでなく,教科外の活動をとおしても大きく成長します。たとえば,運動会や遠足などの学校行事をとおして,全力をあげることの大切さや,力を合わせることの大切さ,自分たちで考えることの大切さなどを,実際のとりくみをとおして学びます。一つの行事を終えたら,子どもたちが見違えるように成長した姿を見せたという経験は,多くの先生方がもっておられると思います。

行事等は「総合」に位置づける

 だから,「授業時数確保」などという口実で,学校行事などを「初めに削減ありき」としないことが大切です。
 まずは,学校で大切にしてきた自治活動,自主的活動,学校行事を選りすぐりましょう。それを特別活動はもとより「総合的な学習の時間」に位置付けること,教科との関連を持たせることもふくめて,どのように時間をつくりだすかについて,知恵を絞りましょう。

 「総合的な学習の時間」について,学習指導要領では,「指導計画の作成と内容の取扱い」で,「教科等の枠を超えた横断的・総合的な学習や児童の興味・関心等に基づく学習を行う」あるいは「他者と協働して課題を解決しようとする学習活動」「グループ学習や異年齢集団による学習などの多様な学習形態」などと述べられています。これを活用すれば,教科外活動を「総合的な学習の時間」に位置付けてすすめることが可能です。大いに工夫したいものです。

(4)学年会や教科部会 生活指導部会 児童会・生徒会担当者会議で縦と横のつながりをつくって

 今述べてきたことを,まず一人で考えることも大切です。でも一人だけよりも,まわりの先生方といっしょにとりくめたら,もっといいですね。ですから,上述したことを学年教師集団でとりくんでみましょう。

学習指導要領通りでは子どもも先生もパンク

 ただでさえ,新学習指導要領は究極の詰め込みとなっているのに,そのうえ,削減された授業時数を何の工夫もせずに指導書に書いてある時間通りそのまま上乗せなどすると,子どもの学習負担は極限を超え,先生方の働き方も極限を超え,子どもも先生方もパンクしてしまうことは,だれが考えてもはっきりしているのではないでしょうか。

 だからこそ,学年会で「子どもにとって大事なことを絞り込んで教えましょう」と話し合えば,一致点が見いだせるのではないでしょうか。これができれば,しっかりとした横の連携をつくることができます。

 

教科部会で縦の連携 学校運営組織をフル活用

 また,教科部会で話し合うことも大切になってきます。たとえば,算数では,新学習指導要領では2年生で3分の1を教えることになっていますが,そもそも無理な話です。だから,それは,2年生ではなく3年生で教えましょう,また,割合も4年生から出てきますが,それは5年生でしっかりやりましょう,ということになれば,縦の連携をつくることができることになります。

 教科外学習については,子どもたちの成長をはかることのできる教育活動について,生活指導部会や児童会・生徒会担当者会議などで教師集団として考えることができると思います。
 このように,学校運営組織をフルに使って,教育課程づくりにとりくむことが必要なのではないでしょうか。

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