§3.具体的なとりくみ
(1)9月から授業再開を想定
受験教科の範囲削減を文科省・都道府県教委へ要望
ここでは,学校再開を9月と想定し,2月末までの授業計画を提案します。また高3,中3については,今年度学習する内容から大学入試,高校入試など試験範囲の縮小削減を文科省・都道府県教委へ進言することことを提案します。この想定理由や条件は次の通りです。
①【授業計画】武漢の都市封鎖解除まで2ヶ月半かかったことを例に,日本もそのようになる可能性も想定したこと。例えば緊急事態宣言が3ヶ月近く続くと7月に入ることや2度目の流行も考えられることから,9月に学校再開とした計画を策定し,それに備えることで,緊急事態が延長されるたびに計画の練り直しを避ける意味があること。解除が早まれば,それに併せて授業を増やせばよいということです。
②【大学入試・高校入試】今年の高校3年生,中学3年生の多くは来年に上級学校への受験を控えています。各校長会や進路指導協議会が中心となって,文科省,都道府県教委へ受験教科(それ以外の教科も)に対する教科書の試験範囲の削減を具体的に申し入れること。例えば,数学では中学3年生は後半で学習する円の性質,三平方の定理,標本調査(統計分野)の削減,高等学校数学Ⅲでは試験範囲を微分法までにし,積分法以降は試験範囲から外すことなど。
③【各学校で今年度の教育課程を作成】今,子どもたちの学習遅延,授業再開が大きな話題になっていますが,何よりも気にかけなくてはならないのは,子どもたちの健康であり,私たちも含めての「命の大切さ」です。その意味で,学校再開後,授業の前にすべきことはたくさんあります。体を動かしたり,レクリェーションなどを通して子どもたちのストレスを和らげること,4月に行われなかった様々な健康診断の実施なども含まれます。授業以前にすべきことを出し合い,その上で授業計画と教科外(行事など)活動計画を立てていくことが必要です。
高3,中3の受験に関わる教科の範囲が削減されるのであれば,他の学年も同様です。削減内容がわかれば,それに併せて授業計画を作成します。また,各学校で教科書の配列にとらわれず,優先順位を決めていきます。休校措置期間の長さにあわせて優先順位の高いものから授業ができるように計画を立てます。内容によっては,次学年以降に回す項目も考えましょう。
(2)9月再開を想定した計画
9月〜2月末まで23週あります。単純計算では,以下の通りの時間になります。
授業の軽重は細かくみる必要がありますが,大まかには下記の通りです。
[1] 小学校の場合
すべての教科を例示することはできませんが,例えば国語(光村図書参照),算数(啓林館参照)の場合をみてみます。(PDFファイル)
①【国語】優れた文学作品や説明文,詩を重点にしっかり教えることが大切だと思います。作品を手段として言語活動につなげるものについては,大胆に削減しましょう。削減した単元の中には「書くこと」が多く含まれていますが,それは,説明文指導をとおして認識と表現の力を身につけることができます。また,日常の作文指導で補うことが可能です。漢字では,4年生で都道府県を漢字で書くということが新たに出てきていますが,それは,社会科の指導の中で学ぶこととします。
【小学4年国語】95時間 ■小学4年国語授業計画■
【小学5年国語】99時間 ■小学5年国語授業計画■
②【算数】4年生の算数では,1けたでわるわり算,2けたでわるわり算と少数のかけ算,わり算を重点に指導します。また,角の大きさと垂直・平行を連続して指導し,面積と直方体・立方体を連続して指導することで,系統的な指導が可能となり,授業時数の削減が可能となります。
【追加】2年生の算数では,1年3年の前後の学年を意識し,量感重視,2年生の内容よりも1年生の復習を重視しています。
【小学4年算数】99時間 ■小学4年算数授業計画■
【小学2年算数】114時間 ■小学2年算数授業計画■(表計算)
【追加】→6年算数の授業計画はコチラ(後半に掲載)
[2] 中学・高校の場合
①【中学3年数学】81時間 【高等学校数学Ⅲ】110時間(標準時数175時間 微分法の応用も除くと90時間)
高3とともに中学3年生はそのほとんどが受験を控えています。
【中3】後半で学習する円の性質,三平方の定理,標本調査(統計分野)を削減します。高校でも学び直しとあわせ,教科書で触れることが多いので,学習を高校で行います。三平方の定理は高校数学Ⅰの図形の計量・三角比で,円周角の定理は数学Aの図形の性質でそのまま扱えるので,補習は不必要。ただ,円周角の定理や三平方の定理は,中学数学のメインともいえる単元なので,時間が増えるようであれば,基本的内容だけでも触れるようにはしたい。
【高3】高等学校数学Ⅲでは積分法まで学習すれば,微積分の醍醐味が実感できますが,大学入試の範囲を微分法までにし,積分法以降は試験範囲から削減(大学で履修)するなど。12月までに終わらせようとすると,「微分法の応用」まで終了するのはむずかしいかもしれません。
②【中学2年数学】66時間
文字式の計算は,連立方程式で扱う範囲を連立方程式を学習する中で扱う。
確率は様々な実験ができる楽しい単元ですが,時間がなければ3年生で扱う。
③【中学1年数学】74時間
入学して(入学式も行えなかった学校も)すぐに緊急事態宣言となり,中学校の生活への実感が伴っていない学年です。小学校の卒業式も含めて。そのため,一層ていねいな指導が必要です。前半は正の数・負の数,1次方程式に力点をあてる。標準時数よりもたっぷりと時間をかけたい。
変化と対応(関数)は2年次の1次関数の分野で扱う。
④【中学理科】1年=68時間 2年=89時間 3年=85時間
STFなんて言っていられないのでその辺を削り,環境を削り,作成しています。
9月始まりでの時数なので,それ以前ならより余裕を持って取り組めることが期待できます。
■中学理科授業計画■
§4.父母・保護者の理解と合意を
上に述べたとりくみをすすめるうえで,もっとも重視したいのは父母・保護者の理解を得,合意をつくってとりくむことです。学校に来られない日がかなり長期にわたっているので,父母・保護者のみなさんも,「これだけ授業時間が少なくなってしまって,うちの子の勉強は大丈夫かしら?」と大きな不安を持っておられることと思います。
まずは,その不安を正面から受け止めましょう。そのうえで,「心配ないですよ。学校では本当に大事なことを選りすぐって子どもたちに教えることにしています。大事なことにはしっかり時間をかけます。でも,次の学年や中学校で教えられることは,そこでしっかり教えてもらうようにしました。安心してください」と伝えれば,きっと理解してもらえ,納得してもらえると思います。
教師が教育の専門家として知恵を絞り計画を立てたことに反対する父母・保護者はいないと思います。父母・保護者を思い切って信頼しましょう。同時に,そうした教育課程づくりで父母・保護者との信頼関係を築くことができます。そうなれば,父母・保護者とともにつくる学校へと大きく前進させることができるのではないでしょうか。
§5.教職員の合意づくりを
これまで述べてきたとりくみをすすめれば,長期休業の縮減や土曜授業の実施,7時間目などをやらなくても,子どもに力をつけることができます。子どもに過重な学習負担を負わせずに,気持ちよく学習にとりくむ条件をつくることができます。それらについて教職員の合意をつくることができれば,学校全体の意思として教育課程をつくるということになります。
しかも,教職員に過重な労働を強いることなくすすめることができます。教員の働き方改革にもつなげることによって,校長との合意をつくることができるのではないでしょうか。校長もふくめて全教職員の合意をつくることは,真剣にとりくむことによって,必ず可能であると考えます。
§6.今こそ,校長先生はリーダーシップを発揮して
上記のとりくみをすすめるうえで,校長先生がリーダーシップをとることはとても大切です。今年ばかりは,教育委員会のいいなりになっていたら,本当に子どもは守れません。まだどうなるかわかりませんが,仮に文部科学省や教育委員会が,これだけ長期の休みによって授業時数が削減されているにもかかわらず,「新学習指導要領どおりの授業時数で授業をおこなえ」と押しつけてきたとしたら,校長もふくめて,「それはいくら何でも無茶な話」「子どもを苦しめ,追い詰めることになる」「それこそが無理難題!」という声があがることは明らかではないでしょうか。
本来校長先生は,学校の代表者であって,教育委員会の出先機関ではありません。こんなときだからこそ,校長先生がリーダーシップを発揮することが求められます。
教職員みんなで,校長先生を盛り立てて,教職員の共同の力で教育活動がすすめられるようにしましょう。
§7.いわゆる「ネット授業」について
大阪でもいくつかの自治体が,いわゆる「ネット授業」を配信しています。現在学校は休業中であり,「ネット授業」は,せいぜい,家庭学習の補助程度のものです。ですから,そもそも「授業」というネーミングそのものが誤りです。授業は,学校の教育課程に位置付けられた教科学習の意味で使われる言葉であり,家庭学習の補助に使用すべき言葉ではありません。このネーミングは,あたかもそれが「授業」であるかのように思い込ませて,学校が再開されたあとも,こうした「個別最適化された学び」を教師の専門性を踏みにじってすすめようとする意図をふくんだものであり,警戒する必要があります。
授業は教師と子どもたちとの双方向・対話的関係でつくりあげるもの
しかも,すでに述べたように,安倍首相による全国一律休校要請によって,異常な2019年度末を迎え,さらには,緊急事態宣言によって,新年度の担任やクラスもわからない状態にある子どもたちに対し,自分の担任の子どもの顔や名前もわからない教師が,ネットで「授業」をするなど,あってはならないことです。
授業は,教授=学習過程であり,教師と子どもたちとの双方向・対話的関係※でつくりあげるものです。したがって,そもそもオンラインでの一方的関係で成立するものではありません。
そのうえ,教育行政が特定の形態の授業を教師に押しつけることは,「教諭は児童の教育をつかさどる」とされている学校教育法に明確に違反するものであり,こうした押しつけは断じて許されません。
※授業は,教師の教授活動,生徒の学習活動,教材の3つの基本的成分から構成される。授業は,これら3者の相互関係のなかで進行する動的過程であり,そこにはいくつかの側面がふくまれている。
授業過程は,一面からみれば,文化遺産の伝達である。しかし,より内面的にとらえれば,授業は,文化財の習得をとおして生徒の諸能力が発達していく過程であり,教材を媒介とする教師の働きかけ(発問とか教示)や生徒相互の影響のもとで生徒が自己発達をとげていく過程である。また,これを教師の側からみれば,文化遺産である教材を使って子どものなかにある可能性を引き出し発展させる過程ということができる…授業は教育実践の中心をなすものであり,教育研究のすべての出発点であると同時にゴールでもあるということができる。(『現代教育学の基礎知識』1979年 有斐閣ブックス)
§8.おわりに
子どもに会いたい!と切望しておられると思います。いまの事態は,あらためて学校や教職員がどのような役割を果たすべきかを問いかけているのではないでしょうか。子どもに会いたい!という心からの願いは,「学校は,子どもにとって,安心の居場所」であり,「子どもと教師がいっしょに生きる場所」であり,「子どもが教師といっしょに,教師が子どもといっしょに成長しあう場所」であることを示していると思います。
だからこそ,授業が遅れているからといって,学習指導要領が示す標準授業時数に照らし合わせて機械的に不足する数字をあてはめ,夏休みをなくすだの,土曜授業をするだのという議論に与してはならないのではないでしょうか。
大切なのは 子どもを全力で受けとめること
いま,もっとも大切なのは,子どもを全力で受け止めることです。そして,子どもといっしょに成長できる新しい学校をつくりあげるつもりで,一つひとつの教育活動をつくりあげることだと思います。いまの事態を,学校を未来に向けて再生する契機に,未来に向けて希望ある学校をつくる契機にしていくことが切に望まれます。この提言が,そのとりくみに少しでも役に立つことができれば,これほどうれしいことはありません。ぜひ,ご検討ください。
大阪教育文化センター事務局