新学習指導要領 批判分析 音楽

新学習指導要領 職場討議資料 > 音楽

大阪教職員組合 「教育課程・教科書」検討委員会

音楽

目標について

 他の教科等においても、「目標」で、「○○の見方・考え方」、「資質・能力」という変更がみられますが、音楽でも同様に、「目標」において、「音楽的な見方・考え方を働かせ」「音楽と豊かに関わる資質・能力を育成することを目指す」とされており、総則で強調されている「見方・考え方」「資質・能力」が音楽でも強調され、現行学習指導要領とは違う構造となっています。

 そして、この目標は3点に細分化され、(1)曲の理解と表現の技能、(2)表現の工夫と鑑賞、(3)感性・態度、とされています。

 現行の目標にあった「音楽活動の基礎的な能力を培い」という表現は消え、現行の「音楽を愛好する心情と音楽に対する感性」については、文言として残しているものの、それが、「音楽に親しむ態度」に収れんされています。改悪教育基本法第2条の教育の目標は、すべて「○○する態度」とされていますが、それが、音楽にも表れており、「態度主義」という改悪教育基本法の具体化が読み取れます。

各学年の目標及び内容について

 「各学年の目標及び内容」については、低学年から難しいことを要求しているのが特徴です。たとえば、小学校1・2年生では、「曲想と音楽の構造などとの関わりについて気付くとともに、音楽表現を楽しむために必要な歌唱、器楽、音楽づくりの技能を身に付けるようにする」という目標が第1に置かれていますが、現行の「楽しく音楽にかかわり…生活を潤いのあるものにする」や「様々な音楽に親しむようにし、基礎的な鑑賞の能力を育て、音楽を味わって聴くようにする」などと比べても、大変高い目標と言わざるを得ません。また、音楽を楽しみ、音楽を生活に取り入れるという文化的な広がりではなく、理屈っぽい音楽になってしまうのではないかと危惧されます。

 この高い目標は、「表現」にもあらわれています。現行学習指導要領では、1・2年生の歌唱では、「歌詞の表す情景や気持ちを想像したり、楽曲の気分を感じ取ったりし、思いをもって歌うこと」とされていますが、新学習指導要領では、「歌唱表現についての知識や技能を得たり生かしたりしながら、豊想を感じ取って表現を工夫し、どのように歌うかについて思いをもつこと」となっています。

 この立場で子どもを指導すれば、音楽嫌いの子どもを大量に生み出すことにならないでしょうか。大変気になるところです。

 このような、音楽から「楽しさ」を後景に追いやる傾向は、3・4年生においても同様です。現行学習指導要領では、3・4年生の目標は、「音楽活動への意欲を高め」「音楽表現の楽しさを感じ取るようにする」「様々な音楽に親しむように」などという文言が使用されていますが、新学習指導要領では「豊想と音楽の構造などとの関わりについて気付くとともに、表したい音楽表現をするために必要な歌唱、器楽、音楽づくりの技能を身に付ける」をはじめとした目標が掲げられていますが、そこには「表現する意欲」という文言は見当たりません。また、「音楽活動をする楽しさ」という文言はありますが、音楽そのものを楽しむという表現はなされていません。

 5・6年生でも、現行の「音楽表現の喜びを味わう」という文言は消えてしまっています。

 これをはじめとして、新学習指導要領には、「技能」、「身に付ける」という言葉が何度も繰り返し出てきます。また先に述べた「曲想と音楽の構造との関わり」をはじめとする「~との関わり」や、「音の特徴」「フレーズの特徴」などにも「気付くことができるよう指導する。」となっています。
さらに音楽づくりでは、「即興的に~表現する技能」という言葉が新たに加わっています。

指導計画の作成と内容の取扱いについて

 「指導計画の作成と内容の取扱い」では、繰り返して「資質・能力」の育成が強調され、「主体的・対話的で深い学びの実現」という総則の文言が繰り返されています。これを見ても、総則ですべての教科、教科外の活動を縛るという新学習指導要領の重大な問題点を指摘することができます。

 また、「君が代」の取り扱いについては、現行学習指導要領策定のときにも厳しい批判が寄せられた「いずれの学年においても歌えるよう指導すること」が新学習指導要領でも同じ文言で記されています。道徳が「特別の教科」とされることと併せてみたときに、今以上に押しつけが強められる危険性を感じざるを得ません。

私たちの対抗軸

 週に1~2時間しかない音楽の学習は、「音楽を楽しむ」ことを大切にしてとりくみたいものです。新学習指導要領にあるような、曲の内容を理解したり演奏の技能を身に付けたりすることに重きを置くようなことになれば、本当に面白くない音楽の授業になってしまいかねません。

 また、「理解」を評価するために、書いたり話したりする表現活動が増え、歌唱や演奏の時間が減ることも考えられます。

 「音楽は難しい、つまらない」と感じる子どもや教師が増えないようにするには、私たちにとって、「音楽を楽しむ」「音楽に親しむ」ことを大切にした授業をすることは欠かせません。

 音楽をはじめ、芸術においては、「表現意欲」「表現内容」「表現能力」のどれ一つ欠かしても楽しい授業にはなりません。「知識・技能」「資質・能力」偏重の音楽の授業ではなく、子どもたちのさまざまな表現や考えを広く受け止め、楽しい授業をつくっていくことをめざすことが大切です。

 

  

新学習指導要領 批判分析 技術・職業

新学習指導要領 職場討議資料 > 技術・職業

大阪教職員組合 「教育課程・教科書」検討委員会

技術・職業

子どもの自主性、やる気を奪う新学習指導要領
“技術”はもともと深い学びの授業です

1.新学習指導要領の特徴と、問題点 中学教師は過労死ラインの人が半数いるといわれている。教科指導以外に学級指導、生活指導、クラブ活動指導、事務作業で教材研究ができる時間が減ってきている。そのような中、新学習指導要領の問題点は、次のものである。

 時間数をそのままで内容を増やす今回の改訂では、「深い学び」はできない。
 資質・能力を育成するために、実践的・体験的な活動の減少で深まりのある学習ができなくなる。

 情報分野の内容が増加するが、ある専門家は「情報」の授業で5分の2時間を使うと他の内容とのバランスが崩れると指摘している。

<学習指導要領の変化>

(現行指導要領の目標)
○進んで生活を工夫し創造する能力と実践的な態度を育てる
*削除(自主性を奪う)
(新学習指導要領の目標)
 生活を工夫し創造する資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
*追加(初めから評価の基準達成が意識され、そのための学習指導になる可能性(危険性)が強まる恐れがある)
*追加(目標の具体化) (2) 生活や社会の中から問題を見いだして課題を設定し、解決策を構想し、実践を評価・改善し、表現するなど、問題を解決する力を養う。
*決められた学び方で設定された問題の解決策、実践につながる

 

(変更点)

(1) ABCD全てに「生活や社会を支える技術」を設定
(2) D「情報の技術」の内容(時間)を増加
(3) 目標に準拠した評価「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3観点になる
(4)生物育成内容の取扱いで(調べる活動などを通して)作物の栽培、動物の飼育及び水産生物の栽培のいずれも扱うこと。になる。

2.私たちが目指す「技術科教育」

 子どもと作ってきた技術の授業は、深い学びの実践が多数ある。次に3つの事例を紹介して討論の資料とする。

① 技術の負の部分にも触れるべき

 今回2、内容A、B、C、D全ての「生活や社会を支える技術」において、技術の負の部分があることにも触れるべきである。たしかに、技術の使い方で生活が便利になった。例えば電気で生活が快適、便利になったことがあげられる。

 しかし、震災が原因で福島県の原子力発電所が爆発して人々の生活や社会を支えるどころか壊してしまった。放射能汚染で住めなくなった人がいる。全国の原子力発電所では放射能廃棄物が増えている。

 これを解決する技術はない。

 子どもには手回し発電機の製作などでも「原子力に頼らない自然エネルギー」を利用して電気を作る技術もあることを学んで欲しい。

② 技術は深い学びに発展する。

 技術科は深い学びに発展する教科である。栽培の授業などを通じて子どもたちは育てる喜びを感じたり、感動をおぼえたりする。その理由は次の実践から生まれた。

○学校には農園が無いので袋栽培でトウモロコシを栽培した。教育委員会の方にグランドに入れる土を運んでもらい、堆肥を混ぜる。そして、その土を玄米の保管用の通気性のよい袋に入れる。

 トウモロコシの種をうめて、毎日水やりをする。

<収穫した時の感想>

・僕は正直なところ、あんな袋に土を入れて、トウモロコシが育つのかと疑問に思っていました。

・母が大のトウモロコシ好きなので、母と半分に分けて食べた。自分で育てたものを食べてみて、こんなに美味しいものだとは思わなかった。

・育てているうちに、自然の力はすごいと思った。毎日必ず何かの変化があるからです。土から芽が出て、花が咲いて実ができる。自然は私たちにとって改めて大切なものだと思いました。

<この実践からの子どものたちの学び>

・体験することで学ぶ喜びをもつ。

・自然の力の素晴らしさを知る。

・他人と共有する事で人の温かみに気づく。

③資質・能力はひきだすもの

 今回の改定の最終具的は、国が定めた「資質・能力」の育成になっている。これでは、子どもの感動や喜び、やる気を引き出す実践でなく、子どもの資質・能力を評価する事を優先する授業内容になる。これは技術の教科としての存在感をなくす事につながる。

 学習指導要領では、子どもの「資質・能力」を育成するとあるが、子どもは基本的に資質・能力を持っている。それを引き出して子どもに気付かせるのが教育である。日頃、子どもたちには「技術の発達が人類の発展を支えてきた」と授業で伝えている。

 技術は石から石器を作ることから始まった。石器を作るときは完成品を想像して、どの場所を叩いたらよいか決める。人類は創意工夫をおこなう中で自分の持っている資質・能力を伸ばし、引き出してきた歴史がある。また、経験で得た技術を仲間に伝えるには、身振り手振りや、簡単なコトバを使い、地面に図も書いて相手に伝えることで技術は発展してきた。そして図を何回もかくことで「脳が鍛えられ、想像力が高まる」このように技術が発展する中で、人類は発展してきた歴史がある。

<製図の授業での工夫>

 簡単な正方形を書く事から始めると、難しい図も理解出来るようになり、物事を多面的に見て考える力が付く。ここからも子どもたちは基本的に資質・能力を持っており、それを引き出すのが授業である。製図は想像力を高めるのに有効なものであり大切な時間である。しかし、製図を学ぶ時間が少なく、改定のたびに製図の内容が変わることは大きな問題である。

3.まとめ

 技術科がかかえる問題点を最後に記しまとめにしたい。

① 技術・家庭科の週当りの授業数を増やす。中学3年生のように週1時間では教科として成り立たない。

② 一人の先生で1、2、3学年の技術・家庭の全てを教えるのは無理がある。

③ 深い学びの学習ができるように、少人数での授業編成を行い、専任教師を増やすことが急務である。

④ 生物育成に必要な施設、設備の充実を。

  

新学習指導要領 批判分析 家庭科

新学習指導要領 職場討議資料 > 家庭科

大阪教職員組合 「教育課程・教科書」検討委員会

家庭科

<小学校>

1.新学習指導要領の特徴と問題点

 新学習指導要領の大きな特徴として次の3点があげられる。

 まずは「第1 目標」において、新学習指導要領で初めて示された「資質・能力」に準拠し、家庭科では、「生活をよりよくしようと工夫する資質・能力」と規定されていることである。そしてその3つの柱に沿った具体的目標が示されている。このように、理解する力や表現する力を、身につけるべき「資質・能力」として示すことは、押しつけにつながり危険である。

 二つめは、「第2 内容」がA~Cに共通して、「課題を持って、○○を考え、工夫する活動を通して、次の事項を身につけることができるよう指導する。」と示されている。そして、「~できること」から「~理解し、適切に使用できること」に変更しており、体験してこそわかるといった子どもの視点からの目標になっていないことは大きな問題である。また、「思考力・判断力・表現力等」が全てで新設され、「課題を解決する力を養う」など、学習方法まで細かく規定していることは、子どもたちの自発的な学びを阻害するものである。「内容の取扱い」では、(3) 実践的・体験的な活動を充実すること。(4) 技能の習得状況や個に応じた指導の充実に努めること。が新設され、一層の配慮や充実が求められるようになっている。

 三つめは、「第3 指導計画の作成と内容の取り扱い」が高度な内容になっている。「協力、健康・快適・安全、持続可能な社会の構築等」の見方・考え方の視点を持って、計画するだけでなく、「B衣食住の生活」の学習と関連させた活動や「異なる世代との交流」、他教科と関連させた活動、衣食住生活全てで生活文化の取り扱いの充実が求められることも大きな変更点である。

2.私たちがめざす「家庭科教育」

 「知識」や「技能」を身につけることは今までも大切にしてきたことであり、生活を主体的に送る上でも大切である。

 しかし、「思考力・判断力・表現力等」を全てに言及していることは、一方的に考えや正解を押し付けてしまうことにつながりかねない。基礎基本は大切にし、自らが考え、行動していける生活の営みを身につけさせることが重要である。また、「~できること」から「~理解し、適切にできること」と変更になっているが、子どもたちが自立してできるようになるまでには、相当の時間がかかる。このことからも、子どもの生活実態からはじまる実践を進めることが重要である。

 「第3 指導計画の作成と内容の取り扱い」では「特別支援教育」の充実や「食物アレルギー」への配慮、ICTの活用の充実が求められると言及されているが、今までも子どもの発達や状況に合わせ進めてきたことである。一層の充実を求められているが、そのためには、教育条件や環境を整えることが重要である。

<中学校>

1.新学習指導要領の特徴と問題点

 特徴と問題点として、次の2点があげられる。

 まず、現行学習指導要領では「『基礎的・基本的な知識及び技術の習得を通して』生活についての理解を深め」、とされているが、新学習指導要領では、その前に「生活の営みに係る見方・考え方を働かせ」という文言が新たに挿入されている。また小学校と同様に、新たに3つの項目を立てて、育成すべき資質・能力を具体的に示されていることは大きな問題である。

 二つ目は、内容項目の大きな変更はないが、A家族・家庭生活が重視されている。「3 内容の取扱い」の記述でそれが如実に表れている。(2)のアでは取扱い方を詳しく記述し、エでは「高齢者の身体の特徴について触れること」が新設されている。また「介護体験」にまで言及し、「介護は家庭や地域で」、という自己責任論を強く押し出している。他にも、日本の伝統文化を大切にすることを否定はしないが、「日本の伝統文化」を重んじ、継承していくことに各所で言及していることは「愛国心」教育の押しつけにつながり、連携先に新たに「企業」が加わっていることは、財界が求める「人材」育成につながる危険性があり、大きな問題である。

 最後に、住生活では「安全な住まい方」が追加されているが、住空間を整えることだけで、「自然災害」から私たちの命や財産が守られることはなく、内容に疑問が残るところが散見されるところも問題である。

2.私たちがめざす「家庭科教育」

 「家族・家庭の基本的な機能」が重視されている中、私たちは「多様な家族がある」という視点を持ち実践を行うことが大切である。また、内容を逆活用できる部分もある。例えば、「内容の取扱い」にある「生活の科学的な理解を深めるための実践的・体験的な活動を充実すること」を活用し、「科学的な」ものの見方や態度を育てていくことや、「協力・協働、健康・快適・安全、生活文化の継承、持続可能な社会の構築等を視点として考え」ての部分から、様々な問題を解決していく力を子どもたちに身につけさせるようにする視点として活用できる。また、これまでも実習などでおこなってきたが、食生活で「だし」が取り上げられたことは大きい。それをさらに発展させ、日本の農業、漁業、林業といった第1次産業を大切にした実践が展開できる展望がある。

 しかし、「高齢者」問題、「介護」問題、自然災害と住居の安全性の単元が「自己責任論」に陥らないような取り上げ方が大切であり、小学校と同様に「特別支援教育」の充実、「情報通信ネットワーク」の活用、「技能の習得状況に応じた少人数指導」をおこなうには、条件を整えることが重要である。

 実践で大切にしたいことは、生徒や家庭、地域の実態をしっかりつかみ、教師自身が「科学的な」ものの見方を持ち、しっかりとした「主権者」を育てる視点をもつことである。

 

  

新学習指導要領 批判分析 体育・健康

新学習指導要領 職場討議資料 > 体育・健康

大阪教職員組合 「教育課程・教科書」検討委員会

体育・健康

1.はじめに

 「つきおろすおけいこだ…前の人のむねのところをおして手をわきの下に入れぐっとふんばっておすのだ…先生は『まだまだゐる。つけつけ』とおっしゃってとてもおもしろかった。つかれたが一人でも大(多)くてきをころそうとおもった」(中根美宝子『疎開学童の日記』中公新書、1955年、51頁)。

 新学習指導要領(以下、新要領)中学校体育の武道の「内容の取扱い」で例示された『銃剣道』に対し、戦時下の疎開学童が日記にて綴った内容である。銃剣道は学童の日記にもあるように相手の心臓を突くと一本になる危険な「武道」である。決して学校教育で教えてよい文化ではない。

 そのことをまず強く主張しつつ、今回大きく修正された「体育科・保健体育科の目標」を中心に批判的に検討する。

2.「目標」に対する批判的検討の視点

 2008年のそれと比較すると、①「体育科の見方・考え方を働かせて…」と書き出された、②体育科・保健体育科で育成することを目指す資質・能力が『三つの柱(個別の知識や技能、思考力・判断力・表現力等、学びに向かう力・人間性等(≒非態度))』で示された、③学習方法・内容の強調(「課題を見付け、その解決に向けた学習過程を通して」「自己の課題を見つけ、その解決に向けて思考し判断するとともに、他者に伝える力を養う」)=統制された、④「知識・技能」と思考・判断・表現が別立てにされた、という四つの大きな違いが見られる。ここでは簡単に批判の視点を記すこととする。

 まず、①については、各教科等の特質に応じた物事を捉える視点や考え方は重要ではあるが、上から特定の「見方・考え方」が与えられてしまうと、教科の捉え方が矮小化れる可能性がある。特に、保健分野では新学習指導要領でも「個人責任」という見方・考え方に矮小化していることは見落としてはならない。また、③も同様の構図で問題である。上から押し付けの「学習方法・内容」統制では、果たして全国一律ではあり得ない子どもたちの発達的、生活的要求を汲み取った学習指導や学習内容を用意できるのか、甚だ疑問である。

 次に、②については、『三つの柱』の内の特に三つ目の態度についてである。
 戦後教育改革期の学習指導要領(1951年)で育成しようとした民主的生活態度においては、規則やきまりについて「つくる-守る-改善する」ことがセットになったものとして示されていた。しかし、それまでの「試案(発行)」から1958年での「官報告示」へと性格を変えた際には「つくる」と「改善する」にはふれないで「守る」だけの社会的態度へと変質された。それ以降今日まで、態度のねらいからは子どもを主体的にするという思想が欠落し、誰がつくったのかもわからない約束やきまりに従順に従う態度や人間性の育成に向かわそうという力学が働き続けている。こういった歴史的批判の視点もあげておきたい。

 ④については、子どもたちができなくても、わからなくても、「課題が見つける活動を(さえ、引用者注)すればいい」「思考して判断した活動を(さえ、引用者注)すればいい」「他者に伝える活動を(さえ、引用者注)すればいい」とならないかという懸念がある。活動は見た目で判断されやすい。活動の中身を精査しない、形だけの、内実は個々ばらばらな「グループ活動」ではなく、「グループ学習」というキーワードをここではあげておきたい。

3.主な「内容」や「取扱い」に関する批判的検討の視点

 構成について、基本的な枠組みは現行要領からほとんどが引き継がれているが、いくつか気になる「手直し」について、発達的・教材的な視点から言及したい。

 まず、中学年の走・跳の運動(低学年ではこれに「遊び」がつく)と高学年の陸上運動には、内容の取扱いで「投の運動(遊び)を加えて指導することができる」と加えられた。体力テストの投能力低下の実態考慮という一面もあるだろうが、「陸上運動」の三分野(走・跳・投)構成であることから言うと、「取扱い」での補足的説明である(格が低い)ことに疑問がある。また、中学校の陸上競技では相変わらず投種目が扱われていない。

 次に、水泳運動では、前回中学年で導入された「呼吸」が「息を吐いたり止めたり」に修正されている。水中での身体操作の重要性や近代泳法も含めた様々な泳ぎへの発展を考えたならば、「呼吸」学習は不可欠であり、神経系が発達する中学年の時期での「呼吸」の修正、つまり連続的な「呼吸」が外された点については身体発達面からもそぐわない内容となっている。水辺で生活する哺乳類の「呼吸」と陸上生活のそれとの比較も、中学年での水泳運動の学習でぜひとも取り上げたい内容である。

 ボールゲームについては、例えば高学年ゴール型ゲームで「ボールを受けるための動き」が「ボールを持たないときの動き」に変わった。現行では低学年から「ボールを持たないときの動き」があったのが、新要領では「攻めや守りの動き」に修正され高学年に回された形(中学年は継続)となっている。これについては、ボール運動の経験の有無と抽象的思考力の獲得が関わってくる。「ボールを持たないときの動き」は、ボール保持者と守りとの関係から我が立ち位置を考え把握するための抽象的思考力が必要となり、高度な学習であると言える。この攻めや守りのかけひきの原理は「空間のかけひき」であり、そのことには中学校でようやく触れられているが、低学年でも十分ゲームを楽しみつつ「空間」について学習可能な「ボールを持たない動き」も存在する。つまり「ボールを持っているかどうか」ではなく「空間をどのように理解し動きや立ち位置へと導くことができるか」というボールゲームの本質に小学校段階で触れられていないという「学習指導の系統性」の問題を孕んでいる。さらに、ボール運動(球技)の歴史的背景には小学生でも発達に応じた多くの学ぶに値する内容が含まれているが、これも中学校に先送りされるような内容となってしまっている。

4.さいごに

 これまで見てきたように、他教科同様に体育・健康教育においても「学習方法と内容の統制」が強まっていることが大きな問題である。教師の創造的な授業づくりは子どもたちとの対話、教材との対話が重要である。いつの時代もそうであったように、私たち現場の教師の深い学びに支えられた「主体的な」声が必要とされている。

  

新学習指導要領 批判分析 生活科・総合

新学習指導要領 職場討議資料 > 生活科・総合

大阪教職員組合 「教育課程・教科書」検討委員会

生活科・総合

1.新指導要領の特徴と変更点

 今回の改定では、どの教科においても、「道徳教育の目標に基づき、道徳科などとの関連を考慮しながら、教科道徳の示す内容について、教科の特質に応じて適切な指導をすること」と書かれている。

 もともと道徳性の強かった「生活科」であるが、さらに、文章の後半が道徳的な内容が盛り込まれている。

 まず、目標は他教科と同様に、育成すべき「資質・能力」に合わせ、「具ハ体的な活動や体験を通して、身近な生活に関わる見方・考え方を生かし、自立し生活を豊かにしていくための資質・能力の育成を目指す」と示し、その柱にそって構成されていることは大きな問題である。

 そして目標の記述が、「~に関わることを通して、……ことができる(思考・判断・表現)」「……気付き(知識・技能)」「……するようにする(学びに力・人間性等)の形式で記述になっているところに特徴がある。

 内容に関して、追加された文言の多くが、「~のことが分かり」となっていることや、自然の様子が追加され、それらに対し、「関心をもって働きかける」となっていることは注意が必要である。

 指導計画の作成と内容の取扱いでは、前半部分に、カリキュラムマネージメント、「アクティブ・ラーニング」の視点・見方・考え方などが追加されたことや、児童の発達の段階や特性を踏まえ、2学年間を見通して学習内容を設定することが強調されている。

 また、「他教科等」との関連、「低学年における教育全体」の充実「中学年以降の教育」への円滑な接続が謳われていることに加え、「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」と関連していることは大きな問題である。「他教科などにおける学習に円滑に移行」「自己を発揮」「自覚的な学び」に向かう。生活科を中心とした「合科的・関連的な指導」や「弾力的な時間割」の設定されていることも注視することが必要である。

 他にも、気付いたことを基に考える学習例として、見付ける、比べる、たとえるに、「試す」「見通す」「工夫する」を追加したり、低学年段階からコンピューターなどの情報機器を適切に活用したりすることが記述されている。

2.問題点

 このような特徴から次のような問題点がある。

 一つ目は、後半の道徳的な文章により、全体を徳目的な内容に変容させることになることである。例えば、「身近な人々、社会及び自然とのかかわりを深めることを通して」「自分を見つめることを通して」「自分のよさや可能性に気付き、意欲と自信を持って生活するようにする」と、身近な人々の支えを強調し、お世話になった人への感謝を強要し、さらには自らの生活の姿勢まで指示する内容となっている。心の押し付けが明確である。そして、伝え合いの学習の「相手のことを想像して・・など」細かく態度や心がけを明記していることは、態度主義につながり大きな問題である。

 二つ目は、子どもたちの発達段階や背景を無視している点である。「家庭での生活は互いに支え合っていることが分かり」と、いろいろな家庭があり、大切ではあるが配慮のいるこの学習に相応しくないことや、自らの成長をメタ認知的な視点で無理やり見させようとしているが、低学年の発達段階に即していないのではないかと考える。

 最後に、コンピューターなどの情報機器の使用で、その特質を踏まえ、児童の発達の段階や特質及び生活科の特質などに応じて適切に活用するようにするとしているが、低学年の初期段階から、活用できるまでのコンピューターの指導に、生活科の時間が充当されることが考えられる。

3.生活科で大切にしたいこと

 生活科は「自然・社会・人」を認識する土台つくりの教科として位置付けることが大切であり、①ものを見る目を育てること、②人との関わりから学ぶこと、③環境保全の観点を持つこと、が重要である。

 生活科では、子どもたちの身近な自然や社会を、具体的な活動や体験を中心に学習する。子どもたちが生活する地域や生活に根ざし、五感を働かせて事物・事実をリアルにとらえ、調べていく。興味や関心は、学習意欲を高め、共同の学習による交流・認識の広がりを大切にする。

 自然の仕組みや不思議を実感し、社会のいろいろなモノやコト・人に出会い、物の見方を育て、知識を豊かにし、自然認識・社会認識の土台つくりとなっていくのである。事実を通して、子どもたちは言葉を獲得し、論理をみがくことができる。本質に迫った学びの中でこそ、感性が豊豆かになっていき、感動する心が生れていくのである。「これまでの生活や生活をさせてくれた人々に感謝の気持ちをもつ」「生き物への親しいを持ち、大切にすることができる」ことは、道徳的押し付けを目標や内容にあげなくても、本物の学びの中で子どもたちが自ら獲得していくものである。子ども自身が感動し、心が震える体験を深く刻み込むことが大切である。みんなで学び合い、響き合いのある学習集団、認め合い、励まし合える学習集団作りは生活科を通しても追求したい。保護者や地域の方の協力も大いに得て、学校、地域ぐるみの学びを創っていくことが大切である。

 今、多くの問いが生まれ、探求し続ける生活科の学びを「指導要領」を逆手にとって、子どもと共に創造し、大胆に展開していくことが重要である。

 えっ?総合の時間を英語に?

  小学校英語は、移行措置期間から行うことになります。

 小学3、4年生は、「聞くこと」「話すこと」の内容が入り、年間15時間の授業がはじまり、小学5、6年生では、①発音、②アルファベット、③代名詞や過去形の文法指導、④「読むこと」「書くこと」を指導することになっています。

 そして文科省は、年間最大15時間までは、「総合」の時間を充てることを特例として認めるとしており、これも大きな問題です。

  

新学習指導要領 批判分析 特別活動

新学習指導要領 職場討議資料 > 特別活動

大阪教職員組合 「教育課程・教科書」検討委員会

特別活動 (特活)

目標について

 新学習指導要領では、現行学習指導要領にある「心身の調和のとれた発達と個性の伸長を図り」という文言が削除されています。また、「自己を生かす能力」が「資質・能力を育成する」に置き換えられています。このことからも、総則で強調されている「資質・能力」が特別活動にも強調されていることが分かります。

 そして、この「資質・能力」は、各活動・学校行事の目標及び内容においても強調されていることが特徴です。さらに、これも総則で強調され、各教科においても述べられている○○の「見方・考え方」が、特別活動においても、「集団や形成者としての見方・考え方を働かせ」と日目頭に置かれていることも特徴です。

 この目標は、新学習指導要領では、3項目に細分化され(現行は目標のみ)①集団での「行動の仕方を身に付け」ること、②「合意形成を図ったり」すること、③「自己の生き方についての考えを深め、自己実現を図ろうとする態度を養う」こと、と述べられています。全体として、態度主義の現れと見ることができます。
各活動・学校行事の目標及び内容について

 「学級活動」の目標では、「将来の生き方を描くために意思決定し」と述べられていますが、小学生には高度な目標であり、小学生の発達段階をふまえたものと言えるのか、大きな疑問です。またここでも、「資質・能力の育成」を目指すとされています。

 内容においては、「児童が主体的に組織をつくり」と述べられています。それ自身はめざすべき内容といえますが、新学習指導要領のつめこみ教育の中では、そのようなゆとりが生まれるのか。はなはだ疑問です。こういうことをおこなうならば英語、道徳の教科化をやめるべきです。

 また、「節度ある生活にすること」や低学年から「約束やきまりを守ることの大切さ」が述べられていますが、特別活動の道徳化と言えるのではないでしょうか。
さらに、「一人一人のキャリア形成と 自己実現」という項目がおかれていますが、小学校段階から将来の仕事のことを考えるのは難しいのではないでしょうか。

 見方を変えれば、「身の丈を知り、自分に合った仕事を早い段階から見極めなさい」と言われているように感じられます。

 「児童会活動」においても、「資質・能力」の育成と述べられています。これは「クラブ活動」や「学校行事」においても同様であり、特別活動全体を「資質・能力」に収れんさせようとするものです。

 「指導計画の作成と内容の取扱い」では、「児童の主体的・対話的で深い学びの実現」が述べられており、これも総則がすべての教科、教科外活動を包み込むものとなっていることの表れです。

 「日の丸・君が代」の取り扱いについては、現行学習指導要領同様、「入学式や卒業式などにおいては、その意義を踏まえ、国旗を掲揚するとともに、国歌を斉唱するよう指導するものとする」と述べられています。学校への押しつけはやめるべきです。

全体としての問題点の指摘

 まず、「人格の完成」という言葉が抜けていることが大きな問題です。「その人らしく生きる」ことよりも「国や企業のための人材育成」をねらっているのが明らかです。本来特別活動は、子どもの自治活動を行うための領域であったはずです。それが、「国や企業のための人材育成」のための児童会・生徒会活動に変えられています。

 また、「合意形成」という言葉がやたらと出てきます。これは、「みんなとにかく一つにまとまりなさい。はみ出すことはゆるさない」と言っているように聞こえます。

 さらに「将来を見据えて」「キャリア」というような言葉が多いのも気になります。小さい頃から自分の能力に見切りをつけて、ふさわしい職業に就くことを勧められているようです。

 そして、最大の問題点は、主権者意識を育てる気がないというところです。
 「節度」「マナー」「きまりを守る」ばかりを強調して批判的精神や新たに作り変えること、新しく生み出すという視点がありません。物言わぬ国民を作ることをねらっているように感じます、

私たちの対抗軸

 これまで蓄積されてきている実践や、いま学校でとりくまれている、子どもの自主性を大切にし、子どもたちが自治の力を身につけられるような、真の意味での「学級会活動」や「児童会活動」「生徒会活動」をおこなうことが重要であると考えます。そして、それを通じて、主権者意識を育てることです。子どもたちが、そのような自主的自治的活動の経験をどれだけ積み上げられるか、が問われてきます。そのためにも、優れた児童会・生徒会活動の実践を集め、交流し合うことがより大切になってきます。

 また、「子ども観」「人間観」をもう一度学習し、「集団づくり」について議論することが大切です。「教育のつどい」・「教育のつどい大阪」の生活指導分科会に多くの人に参加してもらい、みんなで学び直すことが大事になってきます。