新学習指導要領 批判分析 算数・数学

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大阪教職員組合 「教育課程・教科書」検討委員会

算数・数学

1.新学習指導要領の概観

 過去から引き継いでいる問題点-ひっ算の軽視、特殊な型の先行学習、など-はほぼそのままに、今回の改定では以下の様な大きな問題が加わりました。

①<「人材」育成のための算数的領域>への変質

 各学年の目標が、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」に変わりました。これは、算数科の学習が<「人材」育成のための算数的領域>に変わったと考えられます。

②学習内容がさらに増えより難しく

 例えば、2年生の分数学習が現行「1/2、1/4など簡単な分数について知ること」から「1/2、1/3など…」と変わるなど、様々な部分で内容が増え、難しくなっています。

③<学習方法><態度>にさらに踏み込む

「…よりよいものを求めて粘り強く考える態度…を養う」(4~6年生の「目標」)のように、学習方法や態度にさらに踏み込んできています。

2.具体的な問題点

 1.で示した問題点について、かいつまんで具体的に示します。

①<教科教育・算数>から<「人材」育成のための算数的領域>への変質

 これまで「数と計算」「量と測定」「図形」「数量関係」にわかれていた各学年の目標が、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」に変わりました。また、内容は「A数と計算」「B図形」「C測定(3年生まで)/変化と関係(4年生から)」「Dデータの活用」となり、現行「B量と測定」「D数量関係」は削除されました。算数科指導要領の内容で示される領域から<量>という言葉が消えました。

 そして、活動は「算数的活動」から「数学的活動」に名を変え、例えば「…数学的活動を通して、数学的活動に考える資質・能力を…育成することを目指す。

(1)…日常の事象を数理的に処理する技能を身に付ける…(2)日常の事象を数理的に捉え見通しをもち筋道を立てて考察する力、…」となりました。

 わたしたちは、身のまわりの現象を量を手がかりにして解き明かすような学習を、算数教育としてとりくんで来ました。

 しかし、上で示したような変更を目の当たりにすると、算数科学習が<教科教育算数>から<「人材」育成の算数的領域>に変わったと感じざるを得ません。
②学習内容はさらに増え、より難しく以前から「より早い学年から・少しずつ・くり返し学習する」<スパイラル学習>が指導要領に取り入れられています。

 たとえば、1年生で16+3のようなたし算を扱ったり、3年生で96÷3のようなわり算を扱うことがそれにあたります。

 おそらく「子どもが苦手な内容は、早くから何度もくり返し学習させればよい」という発想が根底にあるのだと思います。

 現行指導要領の2年生では「1/2、1/4など簡単な分数について知ること」となっていますが、これは3年生でも難しい分数の学習を2年生から扱うという無謀な内容でした。それをさらに「1/2、1/3など…」とするのですから、驚きます。1/2、1/4なら、色紙や紙テープを半分・さらに半分と折ることで創ることはできますが、1/3をどのように作るのでしょうか、大いに疑問です。わたしたちは、「学ぶには<学びどき>がある」と考えてきました。早くから何度もくり返して学ぶことで身につけさせようという発想は、子どもを学びの主体ととらえず、「人材」としてとらえる発想から生まれているのではないでしょうか。

 その他、現行6年生の<速さ>が5年生での学習になりました。また、5年生での現行「10倍、100倍、…の数をつくり、それらの関係を調べること」が「10倍、100倍、1000倍…の数を小数点の位置を移してつくること」となるなど、様々な部分で内容が増え、難しくなっています。

③<学習方法><態度>にさらに踏み込む

 これまで使われてきた「算数的活動」という言葉が「数学的活動」と変わりました。その内容は、「数学的活動を通して、児童の主体的・対話的で深い学びの実現を図るようにすること。:二「数学的活動を楽しめるようにする機会を設けること」「友だちと考えを伝え合うことで学び合ったり、…よりよく問題解決できたことを実感したりする機会を設けること」(「指導計画と内容の取り扱い」)とされています。各地で授業運営のスタンダード化が押しつけられていますが、これまで以上に学習方法に踏み込んだ記述になっています。

 また、「…よりよいものを求めて粘り強く考える態度…を養う」(4~6年生の「目標」)も気になります。<量>という言葉が消え、学習内容がさらに増え難しくなる中で、「粘り強く考える態度を養う」というのは、どのような学習を想定しているのでしょうか。子どもたちが粘り強く考えたくなるのは、適当な時期に質の高い内容と出会ったときだと思うのですが…。

3.これからの実践を切り拓くには

 学習指導要領・解説で入口を、「全国学テ」で出口を塞がれ、教員評価(成績主義賃金)で縛られて、日々の実践から自由が奪われています。

 そんな今だからこそ、わたしたちは高い専門性をもって授業に臨まなければいけません。教科書の指導書がなければ授業ができないような、市販テストを買わなければ評価ができないような、学習規律や授業運営スタンダードを誰かに決められないと授業運営ができないようなことで、果たしてわたしたちは子どもたちにとってよい授業者たり得るでしょうか。

 多忙という言葉だけでは表現しきれない毎日の忙しさですが、それでも「明日にしか役立たないような些末な技能」に頼るのではなく、しっかりとした専門性を身につけた授業者であるべきなのです。

 子どもたちに学んで欲しい内容を、子どもたちが学ぶにふさわしい時期に、子どもたちにわかりやすく教える。そんな実践がひとつでも増えるように、なかまとともに学び合い、育ち合う職場を創ることが大切なのではないでしょうか。