新学習指導要領 批判分析 社会科

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大阪教職員組合 「教育課程・教科書」検討委員会

社会科

<小学校>

1.新学習指導要領の特徴とそこから見える問題点

 他教科と同様に、新学習指導要領で初めて明記された、「資質・能力」の3つの柱に基づき、目標が整理されていることは、大きな問題である。小学校社会科における特徴と問題点は次のものである。

<「愛国心」教育の強調>

 全ての学年で「愛国心」教育が色濃く出されている。まず全体の目標において、「我が国の国土と歴史に対する愛情」との文言が足され、3・4年生では「地域社会に対する誇りと愛情」、5年生では「我が国の国土に対する愛情」、6年生では「我が国の歴史や伝統を大切にて国を愛する心情」をそれぞれ養うこととある。

 また3~5年生では引き続き、国旗があることの理解と尊重する態度を養うことが書かれていることや、3年生では「元号」を用いた表し方を取り上げることが付加されたことは、これらの目標と結びながら、「愛国心」教育が強くすすめられる危険性がある。

<スキル主義の危険性>

 これまで4年生以上で使用していた、教科用図書「地図」(以下「地図帳」)が3年生から使用することになり、白地図にまとめる作業もおこなうようになっている。これまでも5・6年生では、地図や地球儀などの資料活用は書かれてきたが、文言が整理される中で、より細かく地図・地球儀に加え、統計・年表、遺跡や文化財の資料など記述されていることは、注視する必要がある。

 そして、「地図帳」の取り扱いに関しては、全学年で活用することが新設されたことや、47都道府県の名称と位置の指導に関して、地図帳や地球儀を使って確認することに加え、小学校卒業までに身に付け「活用」できるように指導することになっている。

<自衛隊、領土の範囲の記述>

 最後に、特筆すべき内容として、4年生の内容で「自衛隊」を取り扱うようになっていることや、5年生の領±の範囲において、「竹島や北方領土、尖閣諸島が我が国の固有の領土であることに触れること」とされたことは、大きな問題である。

2.いま社会科の時間で求められることは~真の主権者教育の場、教科書の逆活用も視野に~

 本当に社会科で身に付けさせたいことは、真の主権者としての力である。そのためには、集めた情報や与えられた情報や事象を、客観的かつ批判的に分析し、自分で考え判断する力が必要であり、「愛国心」教育を強調しても、必要な力は身に付かない。

 新学習指導要領は、竹島などを固有の領土として触れることや、国旗を尊重する態度を養う内容になっているが、このような部分は逆活用し、むしろ子どもたちと客観的な資料(史料)を用いながら、批判的に分析する契機にすることで、子どもたちの視野を広げ、より深い学習につながると考えられる。

<中学校>

1.新学習指導要領の特徴と問題点

 小学校と同様に、新しく明記された「資質・能力」に基づき目標や内容が整理されていることは、大きな問題である。

 中学校社会科における特徴と問題点は次の通りである。

<愛国心をより強調した目標に>

 これまでの目標にも、「我が国の国土と歴史に対する理解と愛情を深め」とあった。しかし、今回の改訂では、地理、歴史、公民それぞれの分野の目標にまでも、「愛国心」の記述がある。地理では、「我が国の国土に対する愛情」、歴史では引き続き、「我が国の歴史に対する愛情、国民としての自覚」、そして、公民では、「国民主権を担う公民として、自国を愛し、その平和と繁栄を図る…」とある。

 このように各分野の目標にまで、「愛国心」に関わる目標が明記されたことは、大きな問題である。

 また、その方法として、「多面的・多角的に考察や深い理解を通して」とある。

 たしかに、一面的な見方ではなく、物事を多面的・多角的に考えることは重要であり、学びを深めるためには必要なことである。しかし、この文言が新学習指導要領では、あらゆるところに散りばめられていることは、教育方法の統制につながるおそれがある。

<領土問題に関わる記述の増加と具体化>

 小学校においても、領土問題に関わる記述に変化が見られたが、中学校ではより具体的な記述になっていることが問題である。

 地理では、「竹島」と「尖閣諸島」が追加され、「領土間題は存在しないことも扱うこと」と明記された。領土に関わって今でも議論されているにも関わらず、この様な記述が見られることは問題である。歴史でも具体的になっている。近代史で領土の画定などを取り扱う際に、「北方領土に触れるとともに、竹島、尖閣諸島の編入についても触れること」と追加された。そして公民では、「我が国が、固有の領土である竹島や北方領土に関し…尖閣諸島をめぐり解決すべき領有権の問題は存在しないことなどを取り上げること」と追加された。

 このように、領土問題に関する政府見解を押しつける記述になっていることは大きな問題である。

2.わたしたちが大切にしたいこと

 グローバル化や情報化がすすむ中だからこそ、物事を一面的ではなく、多面的・多角的に見る力が必要である。そのためには、様々な角度からの資料などを用いた授業を展開することが大切であり、その中で子どもたちに、学ぶことの面白さや、深く学ぶ大切さを実感させることが大切である。そして、指導要領でも、一面的な見解を配慮なくとりあげることを否定し、子どもたちに事実を客観的に捉えさせるようにと書いてある。

 今回の改訂で、琉球やアイヌの文化の内容が追加されたことや、核兵器の脅威にふれることで戦争を防止する内容が入ったことは大きい。平和で民主的な国家の主権者として子どもたちが力をつける授業を展開することが望まれる。