新学習指導要領 批判分析 外国語

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大阪教職員組合 「教育課程・教科書」検討委員会

外国語

1.新学習指導要領の問題点

(1) はじめに

 新学習指導要領は、学習方法や評価および資質にまで言及しています。これは現場の授業を相当に拘束することになり、教員の自主的創造的な授業の障害になります。教員が、一人ひとり異なる生徒の実態に基づき様々な判断や工夫を凝らしてこそ、生き生きした授業が展開できるのです。

 今回の改訂では、4技能の1つの「話すこと」が「話すこと「やり取り」」と「話すこと「発表」」に分かれて、中学校の指導目標には「聞くこと、読むこと、話すこと「やり取り」、話すこと「発表」、書くことの5つの領域別に設定する」と書かれ、「話すこと」に重きを置いた内容になっています。

 グローバル化に対応して「コミュニケーション能力の育成」をよりいっそうすす
めるものになっています。

(2) 小学校での外国語教育(英語教育)の早期化、教科化は無理があります

 今の条件で、小学校3年生から外国語活動、5年生から教科としての外国語科を導入することはあまりに無謀です。英語教育は入門期の指導が最も難しく、また大切です。入門期でつまずくとそれがずっと続いていく場合が多いからです。

 仮に小学校で教科を導入するのであれば、専門的知識や技術を持つ専科教員を養成しておこなうべきです。
さらに聞く、話すに加え、読む、書くことも加わり、語彙数でも600~700を学ぶこともあまりにレベルが高すぎます。「わからない子」や「英語嫌いの子」が早期から生まれ、増えてきます。

(3) 「授業は英語で」を押しつけないでください

 高校に続いて中学校でも英語の「授業は英語で行うことを基本とする」との方針を新学習指導要領に盛り込んできました。上から学習指導要領で「授業は英語で」を制度化することは、学問的に確固たる裏付けもなければ、検証もありません。

 学習指導要領によって高校に「授業は英語で」が導入されたのは2013年度の1年生からで、まだ3年生までの完成年度に達していません。なぜ、このような教員の手足を縛る無謀な方針を急ぐのでしょうか。

 この間題は、高校への導入過程でも疑念を生みましたが、実施後の総括もきちんとされていません。そうした状況で、中学校段階まで「前倒し」をするのはあまりに乱暴です。中学校でも導入されると、上からの指導も強まり、「英語で行うことが目的化」する授業になってしまう恐れが十分にあります。

(4) 実態を無視した「高すぎる目標設定」

 小中学校を通して語彙数が急増させられようとしていることは最も深刻な問題の一つです。これまでは小学校の外国語活動を経験してきた子どもたちは、中学校で文字や語彙を学び始め、中学卒業までに1200語を学ぶとされてきました(その前の指導要領の時は900語でした)。今回の改訂では、小学校での600~700語に加え、中学校で新たに1600~1800語で、合計2200~2500語を学ぶとしています。これまでの約2倍です。それに加え、中学校で現在完了進行形や仮定法・感嘆文も学ぶとされています。

 小学校に外国語活動が導入されてから、中学校入学段階で「英語は苦手」という生徒たちが増えてきていました。今回の内容では、中学校で学び直すことも難しい状況です。小中学校現場での実態を無視した改訂をすすめれば、「わからない子」「英語嫌いな子」を早い段階から作り出し、全体としての英語学力もむしろ低下させることにもなります。

2.私たちがめざす外国語教育
-すべての子どもたちに外国語を学ぶよろこびと平和な未来をひらく力を-

 公教育は「スキルの習得」のみを目的とするのではなく「人格の形成」を目標としています。新学習指導要領に示されたスキルに偏った英語力ではなく、教材の内容と質を重視し、人格形成と結びついた英語の学力を身につけさせることが大切です。

 「外国語のことばを知るということは、それだけ多くの心の窓をもつということです。戦時中は、その窓を閉ざさなければなりませんでした」(NHK「花子とアン」より)で言うように、外国語教育の意義には、広く深いものがあります。

 私たちはこの間、教職員組合や民間教育団体の教育研究活動を通じて「外国語教育の4目的」を確立してきています。

【外国語教育の4目的】(2001年)
1 外国語の学習をとおして、世界平和、民族共生、民主主義、人権擁護、環境保護のために、世界の人びととの理解、交流、連帯を進める。
2 労働と生活を基礎として、外国語の学習で養うことがでさる思考や感性を育てる。
3 外国語と日本語とを比較して、日本語への認識を深める。
4 以上をふまえながら、外国語を使う能力の基礎を養う。

 教育研究集会などでは、学習指導要領や教科書の批判検討を行い、英語の学力と豊かな心を育てることを統一させる実践を交流し広げてきました。このことは学習指導要領が「コミュニケーション能力の育成」を声高に打ち出しても、どの教科書も「英会話のテキスト」ではなく、私たち現場の声やこれまでの教育研究活動の成果を反映して、題材内容に「平和」「人権」「環境問題」などを扱ったり、欧米中心からアジア・アフリカを取り上げたものがふえていることからもわかります。

 そのような中、「外国語教育の4目的」にもとついて、自己表現活動、平和・人権・環境問題などを題材にした自主教材、キング牧師の I Have A Dream やマララ演説などのスピーチやマザー・テレサ、杉原千畝6000人のビザなど内容の豊かな教材をじっくりと読み取る実践、自ら学ぶ主体としての協同学習の実践などをすすめてきています。ALTとのティーム・ティーチングでも、単にパターンプラクティスに終わらせずに、「何を伝えるか」を重視した自己表現のとりくみを発展させる必要があります。

 いま現行学習指導要領のもとで、早い時期から多くの英語ぎらいを生み出している現状をふまえ、競争的な学習ではなく、「すべての」子どもの成長・発達を保障する教育、「英語を学ぶ楽しみと分かるよろこび」を味わい「豊かな人間性をはぐくむ」外国語教育の実践をよりいっそう深めていきたいと思います。