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新学習指導要領の特徴と問題点 「総則」

新学習指導要領 職場討議資料 > 総則

大阪教職員組合 「教育課程・教科書」検討委員会

ここが問題!学習指導要領(総則編)

■ 図解・学習指導要領総則 ■(PDF)

改悪教育本法の全面的な具体化

改悪教基法(2006)第2条(教育の目標)

1 幅広い知識と教養を身に付け,真理を求める態度を養い,豊かな情操と
道徳心を培うとともに,健やかな身体を養うこと。

2 個人の価値を尊重して,その能力を伸ばし,創造性を培い,自主及び自
律の精神を養うとともに,職業及び生活との関連を重視し,勤労を重んずる態度を養うこと。

3 正義と責任,男女の平等,自他の敬愛と協力を重んずるとともに,公共
の精神に基づき,主体的に社会の形成に参画し,その発展に寄与する態度を養うこと。

4 生命を尊び,自然を大切にし,環境の保全に寄与する態度を養うこと。

5 伝統と文化を尊重し,それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに,他国を尊重し,国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと。

事実上,国が定めるスタンダード化

教育内容・教育方法,学校運営を学習指導要領で縛る!

【新学習指導要領】

前文に改悪教基法第2条(教育の目標)をまるごと載せ,それにもとづく教育の実現をめざす→改悪教基法の初の具体化

「授業改善」と「道徳の教科化」で教育内容と教育方法を縛り,カリキュラム・マネジメント(PDCAサイクル)で点検

注:=おもな問題点
  =捉え返して対抗軸として使える項目

問題1

「人格の完成」から「資質・能力の育成」へ
「授業改善・道徳の教科化・カリキュラム・マネジメント」

【教育課程の役割】[1]

各学校において,適切な教育課程編成

 ▲「主体的・対話的で深い学び」の実現を授業改善で
「アクティブ・ラーニング」という言葉は消えたが,「主体的・対話的で深い学び」で授業内容・方法の画一化ねらう
②・活用,思考力,判断力,表現力「態度」を養う
 ・道徳教育=特別の教科道徳を要に
  →畏敬の念,伝統文化,我が国と郷土を愛し,…
③資質・能力について→国がきめる
 ・知識・技能・思考力,判断力,表現力
 ・学びに向かう力人間性の涵養
④各校がカリキュラム・マネジメントに努める

問題2
横断的視点の資質・能力育成と授業負担
週あたりの負担過重避けるために長期休業中に授業あてる

【教育課程の編成】[2]
①家庭,地域との共有→社会に開かれた教育課程
②横断的視点に立った資質・能力の育成
③内容等の扱い=学校によって必要がある場合→加えて指導
    「負担過重さけよ」と言っているが,
・授業時数等の取扱いは
  週あたり時数…負担過重ならないように夏休みなど
  長期休業日に授業日を設定するなど適切な授業時数をあてる
・主体的・対話的で深い学びの実現へ授業改善
       →資質・能力育む(指導計画作成の配慮事項)
④幼小間,小中高間の接続
 義務教育学校=9年間を見通した編成
  「小中一貫」を口実とした教育内容・方法の統制

問題3
道徳教育=指導内容の重点化
法・きまりを守る,伝統・文化尊重愛国心強調

道徳教育配慮事項】[6]
①指導内容の重点化
・低学年=善悪の判断,きまりを守る
・中学年=集団や社会のきまりを守ること
・高学年一法やきまりを守る 伝統,文化,愛国心
・中学校一法やきまりの意義「日本人としての自覚」
②道徳教育に関する活動→公表

学習評価】[3]
主体的,対話的で深い学び→授業改善
 「見方・考え方」が鍛えられていくように
 言語能力の育成=言語活動の充実
 情報活用能力の育成=プログラミング体験(小)
②学習評価の充実 資質・能力の育成に生かす

発達の支援】[4]
・キャリア教育の充実
・特別な配慮・指導で障害児のほか,
 新たに日本語困難,不登校を入れる

学校運営上の留意点】[5]
カリキュラム・マネジメントでPDCAサイクル化
家庭・地域との連携各校の連携…教員増見込めない

学校の教育課程編成権をもとに
各校で今まで蓄積された実践を活かして取りくもう

社会に開かれた教育課程の実現が重要【前文】
学習指導要領は大綱的基準としていること
各学校が特色を生かし,創意工夫を
長年にわたり積み重ねられてきた教育実践や学術研究の蓄積を生かし【前文】
 各学校において,適切な教育課程を編成する[1]
           ↓
 学校の教育課程編成権が保障されています。それぞれの学校でこれまでに積み重ねてきた教育実践や研究,蓄積されてきた学術研究を,そのまま使えます。それぞれの特色を活かして実践をすすめましょう。

★特活で掲げる行事を「総合」に振替え可能
 時数削減で学習負担を少しでも減らそう

授業時数をどうするか[2]

10~15分→時数にカウント
総合のまとめ取り可能
学校行事を総合にカウントして実施(現行指導要領も)
           ↓
 各学校で「創意工夫を生かした」時間割の弾力的編成が可能です。かき集めると,相当な時間が確保できることがこれまでの実践で明らかになっています。
 また,校外学習,体育行事,修学旅行などの行事を「同様の成果が期待できる」場合に総合にカウントできます。これにより,授業時数を削減できる可能性が生まれてきます。

  

新学習指導要領 批判分析 国語

新学習指導要領 職場討議資料 > 国語

大阪教職員組合 「教育課程・教科書」検討委員会

国語

 国語科の主に小学校の学習指導要領について、まず、いくつかの間題点を指摘したいと思います。

1.「目標」について

 「目標」では、冒頭に「言葉による見方・考え方を働かせ」という文言がでてきます。この「見方・考え方」は、「総則」を反映して、国語に限らずすべての教科に新しく使われています。これが授業改善の軸とされるならば、いっそう授業の計画や展開が拘束される恐れがあります。

 現行にはない3点の目標がおかれていますが、そこでは「日常生活」という言葉が強調されています。これが日常生活に必要な程度の国語力で良い、という意味であるのならば、文学などを深く読み取る力は大部分の児童には必要がないということを意味します。また、日常生活にも、規範意識を持たせるという意味であるのならば、国語の授業時間以外にも踏み込んで規範に従う児童を育てるためと考えざるを得ません。さらには、「日常生活」に対して、教師はどのように評価すればいいのかという疑問も浮上してきます。

 また、「国語を尊重してその能力の向上を図る態度を養う」も目標とされていますが、これは、明らかに態度重視であり、スタンダードなど型にはめる教育が危惧されます。これを目標として位置付けるのは適切ではないと考えます。

 さらに、現行では「国語を適切に表現し正確に理解する能力」となっているものを順序を入れ替えて「国語で正確に理解し適切に表現する資質・能力」としていますが、これも「総則」にいう「資質・能力」の反映であると考えられます。

2.各学年目標等について

 すべての学年で、目標の(1)に「日常生活に必要な国語の知識や技能を身に付けるとともに、我が国の言語文化に親しんだり理解したりすることができるようにする。」と述べられています。これは、目標で指摘したように、「日常生活」という限定をすべての学年の目標にしていることを意味します。また、現行では「伝統的な言語文化」という表現が使われています。これ自身問題で、この文言のために、低学年での神話や中学年からの文語文が入れられて現場では指導に困難をきたしているものですが、新学習指導要領では、「我が国の言語文化」という文言にされています。「愛国心」の押しつけが問題にされている時期での「我が国の」という文言変更は、それに連なるものと考えられます。また、教育内容については、先に述べた神話や古典はそのままにされており、いまある指導困難は、解決されません。

 また、この「我が国の言語文化」の指導内容に、1・2年では、「長く親しまれている言葉遊びを通して、言葉の豊かさに気付くこと。」が新設されています。

 これが「わらべ歌」などのことを指しているのかどうか現段階では不明ですが、気になるところです。

3.各学年の指導内容について

 「読むこと」では、例えば1・2年では「分かったことや考えたことを述べる活動」「内容や感想などを伝えあったり、演じたりする活動」「分かったことなどを説明する活動」があげられていますが、現行の「本や文章を楽しんだり、想像を広げたりしながら読む」が削除されています。国語の時間の豊かさをそぎ落とすような内容になっており、豊かな文学体験や論理的な説明文学習などが軽視されるのではないかと危惧されます。

 また、「伝え合い」が重視され、個人の読みを深める点が軽視されています。他の学年についても同様の傾向があり、5・6年では、「自分の課題を解決するために」が削除されています。

 3・4年の「話すこと・聞くこと」では、ア「目的を意識して」「伝え合うために必要な事柄を選ぶ」イ「相手に伝わるように」とされ、現行のア「関心のあることなどから」が削除されています。

 これをみると、個人の関心や興味に基づくものでなく、相手や目的を重視したプレゼン能力の育成を目指しているように思えます。他の学年についても1・2年では、現行の「思い出す」から「選ぶ」に、5・6年では、「考えたいことや伝えたいことなどから話題を決め」が「目的や意図に応じて話題を決め」に変更されています。

 これでは、国語科の目的が、小さなビジネスマンを育てるかのように変質させられるのではないでしょうか。

4.私たちの対抗軸

 よく読めば、新学習指導要領の文言の中にも私たちが今まで積み重ねてきた実践と捉えかえせる部分もあります。これを活用した実践は、対抗軸となり得るのではないでしょうか。

 例えば、1・2年Bの「書くこと」では、「経験したことや想像したことなどから書くことを見付け、必要な事柄を集めたり確かめたりして、伝えたいことを明確にすること」「文章に対する感想を伝え合い、自分の文章の内容や表現のよいところを見付けること」などが述べられています。

 これは、私たちが、生活綴り方の実践の中などでごく当たり前にしてきたこと、と捉えかえすことができるでしょう。

 もちろん、文学教育や説明文の指導で積み重ねてきた実践を、教育課程の民主的編成として具体化することは、大変重要なことです。スタンダード化など教師が枠にはめられていく傾向が強まっている中、「新学習指導要領のもとでも、こういう実践ができる」という方向性を示していくことが必要であると考えます。

  

新学習指導要領 批判分析 外国語

新学習指導要領 職場討議資料 > 外国語

大阪教職員組合 「教育課程・教科書」検討委員会

外国語

1.新学習指導要領の問題点

(1) はじめに

 新学習指導要領は、学習方法や評価および資質にまで言及しています。これは現場の授業を相当に拘束することになり、教員の自主的創造的な授業の障害になります。教員が、一人ひとり異なる生徒の実態に基づき様々な判断や工夫を凝らしてこそ、生き生きした授業が展開できるのです。

 今回の改訂では、4技能の1つの「話すこと」が「話すこと「やり取り」」と「話すこと「発表」」に分かれて、中学校の指導目標には「聞くこと、読むこと、話すこと「やり取り」、話すこと「発表」、書くことの5つの領域別に設定する」と書かれ、「話すこと」に重きを置いた内容になっています。

 グローバル化に対応して「コミュニケーション能力の育成」をよりいっそうすす
めるものになっています。

(2) 小学校での外国語教育(英語教育)の早期化、教科化は無理があります

 今の条件で、小学校3年生から外国語活動、5年生から教科としての外国語科を導入することはあまりに無謀です。英語教育は入門期の指導が最も難しく、また大切です。入門期でつまずくとそれがずっと続いていく場合が多いからです。

 仮に小学校で教科を導入するのであれば、専門的知識や技術を持つ専科教員を養成しておこなうべきです。
さらに聞く、話すに加え、読む、書くことも加わり、語彙数でも600~700を学ぶこともあまりにレベルが高すぎます。「わからない子」や「英語嫌いの子」が早期から生まれ、増えてきます。

(3) 「授業は英語で」を押しつけないでください

 高校に続いて中学校でも英語の「授業は英語で行うことを基本とする」との方針を新学習指導要領に盛り込んできました。上から学習指導要領で「授業は英語で」を制度化することは、学問的に確固たる裏付けもなければ、検証もありません。

 学習指導要領によって高校に「授業は英語で」が導入されたのは2013年度の1年生からで、まだ3年生までの完成年度に達していません。なぜ、このような教員の手足を縛る無謀な方針を急ぐのでしょうか。

 この間題は、高校への導入過程でも疑念を生みましたが、実施後の総括もきちんとされていません。そうした状況で、中学校段階まで「前倒し」をするのはあまりに乱暴です。中学校でも導入されると、上からの指導も強まり、「英語で行うことが目的化」する授業になってしまう恐れが十分にあります。

(4) 実態を無視した「高すぎる目標設定」

 小中学校を通して語彙数が急増させられようとしていることは最も深刻な問題の一つです。これまでは小学校の外国語活動を経験してきた子どもたちは、中学校で文字や語彙を学び始め、中学卒業までに1200語を学ぶとされてきました(その前の指導要領の時は900語でした)。今回の改訂では、小学校での600~700語に加え、中学校で新たに1600~1800語で、合計2200~2500語を学ぶとしています。これまでの約2倍です。それに加え、中学校で現在完了進行形や仮定法・感嘆文も学ぶとされています。

 小学校に外国語活動が導入されてから、中学校入学段階で「英語は苦手」という生徒たちが増えてきていました。今回の内容では、中学校で学び直すことも難しい状況です。小中学校現場での実態を無視した改訂をすすめれば、「わからない子」「英語嫌いな子」を早い段階から作り出し、全体としての英語学力もむしろ低下させることにもなります。

2.私たちがめざす外国語教育
-すべての子どもたちに外国語を学ぶよろこびと平和な未来をひらく力を-

 公教育は「スキルの習得」のみを目的とするのではなく「人格の形成」を目標としています。新学習指導要領に示されたスキルに偏った英語力ではなく、教材の内容と質を重視し、人格形成と結びついた英語の学力を身につけさせることが大切です。

 「外国語のことばを知るということは、それだけ多くの心の窓をもつということです。戦時中は、その窓を閉ざさなければなりませんでした」(NHK「花子とアン」より)で言うように、外国語教育の意義には、広く深いものがあります。

 私たちはこの間、教職員組合や民間教育団体の教育研究活動を通じて「外国語教育の4目的」を確立してきています。

【外国語教育の4目的】(2001年)
1 外国語の学習をとおして、世界平和、民族共生、民主主義、人権擁護、環境保護のために、世界の人びととの理解、交流、連帯を進める。
2 労働と生活を基礎として、外国語の学習で養うことがでさる思考や感性を育てる。
3 外国語と日本語とを比較して、日本語への認識を深める。
4 以上をふまえながら、外国語を使う能力の基礎を養う。

 教育研究集会などでは、学習指導要領や教科書の批判検討を行い、英語の学力と豊かな心を育てることを統一させる実践を交流し広げてきました。このことは学習指導要領が「コミュニケーション能力の育成」を声高に打ち出しても、どの教科書も「英会話のテキスト」ではなく、私たち現場の声やこれまでの教育研究活動の成果を反映して、題材内容に「平和」「人権」「環境問題」などを扱ったり、欧米中心からアジア・アフリカを取り上げたものがふえていることからもわかります。

 そのような中、「外国語教育の4目的」にもとついて、自己表現活動、平和・人権・環境問題などを題材にした自主教材、キング牧師の I Have A Dream やマララ演説などのスピーチやマザー・テレサ、杉原千畝6000人のビザなど内容の豊かな教材をじっくりと読み取る実践、自ら学ぶ主体としての協同学習の実践などをすすめてきています。ALTとのティーム・ティーチングでも、単にパターンプラクティスに終わらせずに、「何を伝えるか」を重視した自己表現のとりくみを発展させる必要があります。

 いま現行学習指導要領のもとで、早い時期から多くの英語ぎらいを生み出している現状をふまえ、競争的な学習ではなく、「すべての」子どもの成長・発達を保障する教育、「英語を学ぶ楽しみと分かるよろこび」を味わい「豊かな人間性をはぐくむ」外国語教育の実践をよりいっそう深めていきたいと思います。

  

新学習指導要領 批判分析 社会科

新学習指導要領 職場討議資料 > 社会科

大阪教職員組合 「教育課程・教科書」検討委員会

社会科

<小学校>

1.新学習指導要領の特徴とそこから見える問題点

 他教科と同様に、新学習指導要領で初めて明記された、「資質・能力」の3つの柱に基づき、目標が整理されていることは、大きな問題である。小学校社会科における特徴と問題点は次のものである。

<「愛国心」教育の強調>

 全ての学年で「愛国心」教育が色濃く出されている。まず全体の目標において、「我が国の国土と歴史に対する愛情」との文言が足され、3・4年生では「地域社会に対する誇りと愛情」、5年生では「我が国の国土に対する愛情」、6年生では「我が国の歴史や伝統を大切にて国を愛する心情」をそれぞれ養うこととある。

 また3~5年生では引き続き、国旗があることの理解と尊重する態度を養うことが書かれていることや、3年生では「元号」を用いた表し方を取り上げることが付加されたことは、これらの目標と結びながら、「愛国心」教育が強くすすめられる危険性がある。

<スキル主義の危険性>

 これまで4年生以上で使用していた、教科用図書「地図」(以下「地図帳」)が3年生から使用することになり、白地図にまとめる作業もおこなうようになっている。これまでも5・6年生では、地図や地球儀などの資料活用は書かれてきたが、文言が整理される中で、より細かく地図・地球儀に加え、統計・年表、遺跡や文化財の資料など記述されていることは、注視する必要がある。

 そして、「地図帳」の取り扱いに関しては、全学年で活用することが新設されたことや、47都道府県の名称と位置の指導に関して、地図帳や地球儀を使って確認することに加え、小学校卒業までに身に付け「活用」できるように指導することになっている。

<自衛隊、領土の範囲の記述>

 最後に、特筆すべき内容として、4年生の内容で「自衛隊」を取り扱うようになっていることや、5年生の領±の範囲において、「竹島や北方領土、尖閣諸島が我が国の固有の領土であることに触れること」とされたことは、大きな問題である。

2.いま社会科の時間で求められることは~真の主権者教育の場、教科書の逆活用も視野に~

 本当に社会科で身に付けさせたいことは、真の主権者としての力である。そのためには、集めた情報や与えられた情報や事象を、客観的かつ批判的に分析し、自分で考え判断する力が必要であり、「愛国心」教育を強調しても、必要な力は身に付かない。

 新学習指導要領は、竹島などを固有の領土として触れることや、国旗を尊重する態度を養う内容になっているが、このような部分は逆活用し、むしろ子どもたちと客観的な資料(史料)を用いながら、批判的に分析する契機にすることで、子どもたちの視野を広げ、より深い学習につながると考えられる。

<中学校>

1.新学習指導要領の特徴と問題点

 小学校と同様に、新しく明記された「資質・能力」に基づき目標や内容が整理されていることは、大きな問題である。

 中学校社会科における特徴と問題点は次の通りである。

<愛国心をより強調した目標に>

 これまでの目標にも、「我が国の国土と歴史に対する理解と愛情を深め」とあった。しかし、今回の改訂では、地理、歴史、公民それぞれの分野の目標にまでも、「愛国心」の記述がある。地理では、「我が国の国土に対する愛情」、歴史では引き続き、「我が国の歴史に対する愛情、国民としての自覚」、そして、公民では、「国民主権を担う公民として、自国を愛し、その平和と繁栄を図る…」とある。

 このように各分野の目標にまで、「愛国心」に関わる目標が明記されたことは、大きな問題である。

 また、その方法として、「多面的・多角的に考察や深い理解を通して」とある。

 たしかに、一面的な見方ではなく、物事を多面的・多角的に考えることは重要であり、学びを深めるためには必要なことである。しかし、この文言が新学習指導要領では、あらゆるところに散りばめられていることは、教育方法の統制につながるおそれがある。

<領土問題に関わる記述の増加と具体化>

 小学校においても、領土問題に関わる記述に変化が見られたが、中学校ではより具体的な記述になっていることが問題である。

 地理では、「竹島」と「尖閣諸島」が追加され、「領土間題は存在しないことも扱うこと」と明記された。領土に関わって今でも議論されているにも関わらず、この様な記述が見られることは問題である。歴史でも具体的になっている。近代史で領土の画定などを取り扱う際に、「北方領土に触れるとともに、竹島、尖閣諸島の編入についても触れること」と追加された。そして公民では、「我が国が、固有の領土である竹島や北方領土に関し…尖閣諸島をめぐり解決すべき領有権の問題は存在しないことなどを取り上げること」と追加された。

 このように、領土問題に関する政府見解を押しつける記述になっていることは大きな問題である。

2.わたしたちが大切にしたいこと

 グローバル化や情報化がすすむ中だからこそ、物事を一面的ではなく、多面的・多角的に見る力が必要である。そのためには、様々な角度からの資料などを用いた授業を展開することが大切であり、その中で子どもたちに、学ぶことの面白さや、深く学ぶ大切さを実感させることが大切である。そして、指導要領でも、一面的な見解を配慮なくとりあげることを否定し、子どもたちに事実を客観的に捉えさせるようにと書いてある。

 今回の改訂で、琉球やアイヌの文化の内容が追加されたことや、核兵器の脅威にふれることで戦争を防止する内容が入ったことは大きい。平和で民主的な国家の主権者として子どもたちが力をつける授業を展開することが望まれる。

  

新学習指導要領 批判分析 算数・数学

新学習指導要領 職場討議資料 > 算数・数学

大阪教職員組合 「教育課程・教科書」検討委員会

算数・数学

1.新学習指導要領の概観

 過去から引き継いでいる問題点-ひっ算の軽視、特殊な型の先行学習、など-はほぼそのままに、今回の改定では以下の様な大きな問題が加わりました。

①<「人材」育成のための算数的領域>への変質

 各学年の目標が、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」に変わりました。これは、算数科の学習が<「人材」育成のための算数的領域>に変わったと考えられます。

②学習内容がさらに増えより難しく

 例えば、2年生の分数学習が現行「1/2、1/4など簡単な分数について知ること」から「1/2、1/3など…」と変わるなど、様々な部分で内容が増え、難しくなっています。

③<学習方法><態度>にさらに踏み込む

「…よりよいものを求めて粘り強く考える態度…を養う」(4~6年生の「目標」)のように、学習方法や態度にさらに踏み込んできています。

2.具体的な問題点

 1.で示した問題点について、かいつまんで具体的に示します。

①<教科教育・算数>から<「人材」育成のための算数的領域>への変質

 これまで「数と計算」「量と測定」「図形」「数量関係」にわかれていた各学年の目標が、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」に変わりました。また、内容は「A数と計算」「B図形」「C測定(3年生まで)/変化と関係(4年生から)」「Dデータの活用」となり、現行「B量と測定」「D数量関係」は削除されました。算数科指導要領の内容で示される領域から<量>という言葉が消えました。

 そして、活動は「算数的活動」から「数学的活動」に名を変え、例えば「…数学的活動を通して、数学的活動に考える資質・能力を…育成することを目指す。

(1)…日常の事象を数理的に処理する技能を身に付ける…(2)日常の事象を数理的に捉え見通しをもち筋道を立てて考察する力、…」となりました。

 わたしたちは、身のまわりの現象を量を手がかりにして解き明かすような学習を、算数教育としてとりくんで来ました。

 しかし、上で示したような変更を目の当たりにすると、算数科学習が<教科教育算数>から<「人材」育成の算数的領域>に変わったと感じざるを得ません。
②学習内容はさらに増え、より難しく以前から「より早い学年から・少しずつ・くり返し学習する」<スパイラル学習>が指導要領に取り入れられています。

 たとえば、1年生で16+3のようなたし算を扱ったり、3年生で96÷3のようなわり算を扱うことがそれにあたります。

 おそらく「子どもが苦手な内容は、早くから何度もくり返し学習させればよい」という発想が根底にあるのだと思います。

 現行指導要領の2年生では「1/2、1/4など簡単な分数について知ること」となっていますが、これは3年生でも難しい分数の学習を2年生から扱うという無謀な内容でした。それをさらに「1/2、1/3など…」とするのですから、驚きます。1/2、1/4なら、色紙や紙テープを半分・さらに半分と折ることで創ることはできますが、1/3をどのように作るのでしょうか、大いに疑問です。わたしたちは、「学ぶには<学びどき>がある」と考えてきました。早くから何度もくり返して学ぶことで身につけさせようという発想は、子どもを学びの主体ととらえず、「人材」としてとらえる発想から生まれているのではないでしょうか。

 その他、現行6年生の<速さ>が5年生での学習になりました。また、5年生での現行「10倍、100倍、…の数をつくり、それらの関係を調べること」が「10倍、100倍、1000倍…の数を小数点の位置を移してつくること」となるなど、様々な部分で内容が増え、難しくなっています。

③<学習方法><態度>にさらに踏み込む

 これまで使われてきた「算数的活動」という言葉が「数学的活動」と変わりました。その内容は、「数学的活動を通して、児童の主体的・対話的で深い学びの実現を図るようにすること。:二「数学的活動を楽しめるようにする機会を設けること」「友だちと考えを伝え合うことで学び合ったり、…よりよく問題解決できたことを実感したりする機会を設けること」(「指導計画と内容の取り扱い」)とされています。各地で授業運営のスタンダード化が押しつけられていますが、これまで以上に学習方法に踏み込んだ記述になっています。

 また、「…よりよいものを求めて粘り強く考える態度…を養う」(4~6年生の「目標」)も気になります。<量>という言葉が消え、学習内容がさらに増え難しくなる中で、「粘り強く考える態度を養う」というのは、どのような学習を想定しているのでしょうか。子どもたちが粘り強く考えたくなるのは、適当な時期に質の高い内容と出会ったときだと思うのですが…。

3.これからの実践を切り拓くには

 学習指導要領・解説で入口を、「全国学テ」で出口を塞がれ、教員評価(成績主義賃金)で縛られて、日々の実践から自由が奪われています。

 そんな今だからこそ、わたしたちは高い専門性をもって授業に臨まなければいけません。教科書の指導書がなければ授業ができないような、市販テストを買わなければ評価ができないような、学習規律や授業運営スタンダードを誰かに決められないと授業運営ができないようなことで、果たしてわたしたちは子どもたちにとってよい授業者たり得るでしょうか。

 多忙という言葉だけでは表現しきれない毎日の忙しさですが、それでも「明日にしか役立たないような些末な技能」に頼るのではなく、しっかりとした専門性を身につけた授業者であるべきなのです。

 子どもたちに学んで欲しい内容を、子どもたちが学ぶにふさわしい時期に、子どもたちにわかりやすく教える。そんな実践がひとつでも増えるように、なかまとともに学び合い、育ち合う職場を創ることが大切なのではないでしょうか。

 

  

新学習指導要領 批判分析 理科

新学習指導要領 職場討議資料 > 理科

大阪教職員組合 「教育課程・教科書」検討委員会

理科

<小学校>

1.新学習指導要領の特徴と問題点

<目標・内容をこまかく規定>

 今回の改訂により、全学年で、目標、内容が詳細な記述になっている。その背景にあるものは、新たに示された「資質・能力」である。これが示す3つの柱にそって、①観察、実験に関する基本的な技能、②課題を追求すること、③課題を追求し、主体的に問題解決しようとする態度、をどの学年のどの単元でも身に付けるようになっている。このように、国が「資質・能力」を示し、育成すべき力を限定していることは注意が必要であり、授業の画一化につながるおそれもある。

<表現方法の高度化>

 「思考力・判断力・表現力」にかかわり、表現するまでのプロセスが具体的に示されているのも、特徴的である。
課題を追求することを前提に、3年生では、「主な差異点や共通点を基に問題を見出し」、4年生では、「既習の内容や生活体験を基に…根拠ある予想や仮説を発想し」、5年生では、「関係する条件についての予想や仮説を基に、解決の方法を発想し」、6年生では、「より妥当な考えをつくりだし」表現することになっている。一定、段階をおった指導に見えるが、求められていることが高度であり、すべての子どもがこのように表現することは難しいうえに、表現方法を規定したことは大きな問題といえる。

<プログラミング教育の新設と、自然災害を全学年で取扱う>

 今回の改訂で小学校では、「プログラミング教育」が必修化される。中学校では技術科の内容に該当するが、小学校では、総合的な学習、算数、理科、音楽の時間を利用し、おこなうようになっている。

 理科においては、第3指導計画の作成と内容の取扱いで、「観察、実験などの指導にあたって…プログラミングを体験しながら論理的思考力を身につける」としている。そして、6年生の電気の性質や働きの単元が例示されている。

 「プログラミング教育」は、急に出てきたものであり、教育現場からの要望によってできたものではない。また、理科との関わりも明確にされておらず、なぜ理科で「プログラミング教育」をおこなわなければならないかも、明らかでない。

 そして、教育環境の整備なしでは、この「プログラミング」はうまくいくはずがない。

2.小学校理科で大切にしたいこと

 今回の改訂では、「科学的な見方や考え方を養う」という文言が消えた。

 本来理科は、実験や観察などを通して直接自然に働きかけ、科学的な見方を身につけていく教科である。そして科学とは何かを学ぶところに面白さがある。突然現れた「プログラミング教育」などに惑わされず、子どもたちが科学を学ぶことの楽しさや大切さを実感できる授業を展開することが、今こそ求められる。

<中学校>

1.新学習指導要領の特徴

<目標の変化>

 中学校理科の目標は、「自然の事物・現象に関わり、理科の見方・考え方を働かせ、見通しをもって観察、実験をおこなうなどを通して、自然の事物・現象を科学的に探究するために必要な資質・能力を次のとおり育成する」とし、新たなに規定された「資質・能力」にもとづき設定され、そこでは、「科学的に探究する態度」までも明確に位置づけられている。

 現行の指導要領では、「科学的な見方や考え方を養う」ことが大きな目標となっていた。しかし、探究する態度が記されたことや、「科学的」な見方や考え方を、「『理科』の見方・考え方を働かせ」と変わったことは、大きな問題である。

<理解すること・探究することの強調>

 目標から内容に関して、「科学的に探究する」ことが強調され、その視点からの「技能」や「態度」を身につけることが重視されていることは注視する必要がある。また、現行の指導要領では、観察や実験から、性質などを「見いだす」ことや、「とらえる」となっていたところが、「見いだし理解すること」「関連付けて理解すること」と、1分野、2分野ともに、「事象を理解すること」が強調されている。たしかに理解することは重要であるが、ここまで「理解すること」が強調されていることは、合わせて注視することが重要である。

2.大切にしたいこと~私たちの実践のポイント~

 理科の授業を通じて子どもたちに学ばせたいことは、国や財界が求める人材育成に必要な「理科の見方・考え方」ではなく、自然の事物・現象について理解を深め、「科学的な見方・考え方」を身につけることである。しかし、新学習指導要領は、「科学的に探究すること」が重視され、態度まで規定するところに問題がある。

 そのような中、現代日本の抱える課題等にかかわる内容が補填されている面もあり、その部分は最大限に活用し、授業を展開していくことが重要である。

 例として第1分野では、プラスチックの取り扱いの変化がある。現行指導要領では、有機物と無機物、金属と非金属の違いの中で唐突に扱われてきたが、新学習指導要領では、天然の物質や人工的につくられた物質の中で取り扱われるようになったことは、意義のあることである。

 第2分野では、「内容の取扱い」において、「地球内部の働き」の中で、「津波発生の仕組みについても触れること」が追加された。これは東日本大震災など、現代がかかえる問題に即した内容であり、とりあげられたことは大きい。現行の指導要領から追加された、放射線の内容と合わせて、原発事故の問題等を深く学ぶチャンスが広がっている。

 このような部分をうまく活用し、科学的見地にもとづいた授業を展開することが求められる。

  

新学習指導要領 批判分析 美術

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大阪教職員組合 「教育課程・教科書」検討委員会

美術

1.目標部分の変更は大問題

 美術教育の目標について、大きな変更が持ち込まれました。それは、従来の美術教育の考え方とは全く異質なものであるといえるでしょう。

 現行指導要領では、その目的は「美術の創造活動の喜びを味わい美術を愛好する心情を育てるとともに、感性を豊かにし、美術の基礎的な能力を伸ばし、……豊かな情操を養う」とされています。美術・造形活動の中にある“喜びの要素”を大事にする点や、その能力は“子どもの中から引き出し伸ばしていくもの”であると読み取り理解できる、造形表現能力観が残されていました。『情操』という言葉で目標文は締めくくられ、ある意味では伝統的な美術教育の考え方の中にあったといえるでしょう。

 しかし、今回発表された新学習指導要領では、「造形的な見方・考え方を働かせ、生活や社会の中の美術や美術文化と豊かに関わる資質・能力を次の通り育成することを目指す」としています。『資質・能力』という今回の指導要領全体に共通する特異な教育観・学力観では、その『資質・能力』は『知識・技能』『思考力・判断力・表現力等』『学びに向かう力・人間性等』(2016年12月の中教審答申の資料)によって構成されていると説明されています。一人ひとりの表現する喜びと深く結びついている美術教育で養うものを「2030年のグローバル競争社会を生き抜く人材に必要な能力」(教育課程企画特別部会の2016年8月の論点整理)とし、人格の完成を目指してきた教育から根本的に変えていこうとしているといえるでしょう。こうした教科観が評価(通知表など)と結びついて強制されていくことを考えると、この間題は極めて重要だと思います。

 また、「……できるようにする」という到達基準の設定ともいえる指導的視点を強調する文末表現も気になります。

2.「できるようにする」という具体的指示が強調されているが…

 今回の指導要領の文末の特徴は、「……できるようにする」「……身につけることができるように指導する」という言葉です。それと併せて、内容の取扱いの部分で「第1学年では、……各事項の定着を図ることを基本とし、一年間ですべての内容が学習できるように一題材に充てる時間数などについて十分に検討」することなっているが、このことがカリキュラムマネジメントで点検されていけば、少ない美術の時間が細切れの知識注入や達成感の無い短時間教材の羅列というカリキュラムにならざるを得ないのではないでしょうか。美術の授業から試行錯誤やじっくり自己を見つめ表現意欲を醸し出すための時間を省略していいはずはありません。そんな流れが強まっていくのではないかという危惧を禁じえません。

3.美術から「自己表現」の側面を抜き取り「注文にこたえる活動」へ

 今次改定のもう一つの特徴は、『社会に開かれた……』教育課程を目指すとしていることです。「社会とのかかわり……」という言葉が随所にちりばめられることにより、社会に対して批判的見地を持たない限り、コマーシャリズムが際限なく入ってくることになるでしょう。思春期の表現活動は自分の内面の形成と深く関わっています。人間形成にとって大事な時期に“外から与えられた課題”に自分の気持ちや造形表現技術をすり合わせるだけでいいのでしょうか。造形表現活動は本来、一人ひとりの人格と深く結びついています。作品のテーマを決めていくのはあくまで個人です。この点を否定することになる今回の方向性は、触覚、認識、言語などの人間活動の総合である造形表現活動を、子どものリアルな生活実感と切り離し、単なる“技術”に既めることになるのではないでしょうか。

4.「特別の教科・道徳」と思春期の美術表現は両立しえない

 前回強調された道徳とのかかわりは、「特別の教科道徳」の導入と、道徳をあらゆる教科の上に置くという今回の改定の中で、文面の変更がなくても大きな構造変更と考えるべきでしょう。この指導要領全体が道徳強化=国民教化の色合いを強く打ち出していることについてはそのまま認めるわけにはいきません。表現の前提は内面の自由です。作品のテーマは本来自分で設定するものです。美術の表現と、ここでいう道徳は、本来は全く両立しえないものです。また、思春期の生徒のテーマは、時として“反道徳的”になることは発達上十分考えられることですし、それを認めたうえで、さらに本人が表現を深めていけるよう指導すべきでしょう。徳目ばかりを意識した“道徳的指導”では、表現のリアリティは消え、建て前と嘘がまかり通る“やらせ的表現”の授業となってしまうでしょう。

5.アクティブ・ラーニング、言語活動、カリキュラムマネジメント、評価の変更など

 指導要領に触れていないことでも気になることは沢山あります。「論点整理」の中で強調された「アクティブ・ラーニング」などについても、子どもの自由な表現活動の保障という教科の本質から批判検討が必要でしょう。とりわけ、「評価」の問題は私たちの子ども観、教育観、美術観などが試されています。全国的な実践研究交流を至急に進めていきましょう。

  

新学習指導要領 批判分析 音楽

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大阪教職員組合 「教育課程・教科書」検討委員会

音楽

目標について

 他の教科等においても、「目標」で、「○○の見方・考え方」、「資質・能力」という変更がみられますが、音楽でも同様に、「目標」において、「音楽的な見方・考え方を働かせ」「音楽と豊かに関わる資質・能力を育成することを目指す」とされており、総則で強調されている「見方・考え方」「資質・能力」が音楽でも強調され、現行学習指導要領とは違う構造となっています。

 そして、この目標は3点に細分化され、(1)曲の理解と表現の技能、(2)表現の工夫と鑑賞、(3)感性・態度、とされています。

 現行の目標にあった「音楽活動の基礎的な能力を培い」という表現は消え、現行の「音楽を愛好する心情と音楽に対する感性」については、文言として残しているものの、それが、「音楽に親しむ態度」に収れんされています。改悪教育基本法第2条の教育の目標は、すべて「○○する態度」とされていますが、それが、音楽にも表れており、「態度主義」という改悪教育基本法の具体化が読み取れます。

各学年の目標及び内容について

 「各学年の目標及び内容」については、低学年から難しいことを要求しているのが特徴です。たとえば、小学校1・2年生では、「曲想と音楽の構造などとの関わりについて気付くとともに、音楽表現を楽しむために必要な歌唱、器楽、音楽づくりの技能を身に付けるようにする」という目標が第1に置かれていますが、現行の「楽しく音楽にかかわり…生活を潤いのあるものにする」や「様々な音楽に親しむようにし、基礎的な鑑賞の能力を育て、音楽を味わって聴くようにする」などと比べても、大変高い目標と言わざるを得ません。また、音楽を楽しみ、音楽を生活に取り入れるという文化的な広がりではなく、理屈っぽい音楽になってしまうのではないかと危惧されます。

 この高い目標は、「表現」にもあらわれています。現行学習指導要領では、1・2年生の歌唱では、「歌詞の表す情景や気持ちを想像したり、楽曲の気分を感じ取ったりし、思いをもって歌うこと」とされていますが、新学習指導要領では、「歌唱表現についての知識や技能を得たり生かしたりしながら、豊想を感じ取って表現を工夫し、どのように歌うかについて思いをもつこと」となっています。

 この立場で子どもを指導すれば、音楽嫌いの子どもを大量に生み出すことにならないでしょうか。大変気になるところです。

 このような、音楽から「楽しさ」を後景に追いやる傾向は、3・4年生においても同様です。現行学習指導要領では、3・4年生の目標は、「音楽活動への意欲を高め」「音楽表現の楽しさを感じ取るようにする」「様々な音楽に親しむように」などという文言が使用されていますが、新学習指導要領では「豊想と音楽の構造などとの関わりについて気付くとともに、表したい音楽表現をするために必要な歌唱、器楽、音楽づくりの技能を身に付ける」をはじめとした目標が掲げられていますが、そこには「表現する意欲」という文言は見当たりません。また、「音楽活動をする楽しさ」という文言はありますが、音楽そのものを楽しむという表現はなされていません。

 5・6年生でも、現行の「音楽表現の喜びを味わう」という文言は消えてしまっています。

 これをはじめとして、新学習指導要領には、「技能」、「身に付ける」という言葉が何度も繰り返し出てきます。また先に述べた「曲想と音楽の構造との関わり」をはじめとする「~との関わり」や、「音の特徴」「フレーズの特徴」などにも「気付くことができるよう指導する。」となっています。
さらに音楽づくりでは、「即興的に~表現する技能」という言葉が新たに加わっています。

指導計画の作成と内容の取扱いについて

 「指導計画の作成と内容の取扱い」では、繰り返して「資質・能力」の育成が強調され、「主体的・対話的で深い学びの実現」という総則の文言が繰り返されています。これを見ても、総則ですべての教科、教科外の活動を縛るという新学習指導要領の重大な問題点を指摘することができます。

 また、「君が代」の取り扱いについては、現行学習指導要領策定のときにも厳しい批判が寄せられた「いずれの学年においても歌えるよう指導すること」が新学習指導要領でも同じ文言で記されています。道徳が「特別の教科」とされることと併せてみたときに、今以上に押しつけが強められる危険性を感じざるを得ません。

私たちの対抗軸

 週に1~2時間しかない音楽の学習は、「音楽を楽しむ」ことを大切にしてとりくみたいものです。新学習指導要領にあるような、曲の内容を理解したり演奏の技能を身に付けたりすることに重きを置くようなことになれば、本当に面白くない音楽の授業になってしまいかねません。

 また、「理解」を評価するために、書いたり話したりする表現活動が増え、歌唱や演奏の時間が減ることも考えられます。

 「音楽は難しい、つまらない」と感じる子どもや教師が増えないようにするには、私たちにとって、「音楽を楽しむ」「音楽に親しむ」ことを大切にした授業をすることは欠かせません。

 音楽をはじめ、芸術においては、「表現意欲」「表現内容」「表現能力」のどれ一つ欠かしても楽しい授業にはなりません。「知識・技能」「資質・能力」偏重の音楽の授業ではなく、子どもたちのさまざまな表現や考えを広く受け止め、楽しい授業をつくっていくことをめざすことが大切です。

 

  

新学習指導要領 批判分析 技術・職業

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大阪教職員組合 「教育課程・教科書」検討委員会

技術・職業

子どもの自主性、やる気を奪う新学習指導要領
“技術”はもともと深い学びの授業です

1.新学習指導要領の特徴と、問題点 中学教師は過労死ラインの人が半数いるといわれている。教科指導以外に学級指導、生活指導、クラブ活動指導、事務作業で教材研究ができる時間が減ってきている。そのような中、新学習指導要領の問題点は、次のものである。

 時間数をそのままで内容を増やす今回の改訂では、「深い学び」はできない。
 資質・能力を育成するために、実践的・体験的な活動の減少で深まりのある学習ができなくなる。

 情報分野の内容が増加するが、ある専門家は「情報」の授業で5分の2時間を使うと他の内容とのバランスが崩れると指摘している。

<学習指導要領の変化>

(現行指導要領の目標)
○進んで生活を工夫し創造する能力と実践的な態度を育てる
*削除(自主性を奪う)
(新学習指導要領の目標)
 生活を工夫し創造する資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
*追加(初めから評価の基準達成が意識され、そのための学習指導になる可能性(危険性)が強まる恐れがある)
*追加(目標の具体化) (2) 生活や社会の中から問題を見いだして課題を設定し、解決策を構想し、実践を評価・改善し、表現するなど、問題を解決する力を養う。
*決められた学び方で設定された問題の解決策、実践につながる

 

(変更点)

(1) ABCD全てに「生活や社会を支える技術」を設定
(2) D「情報の技術」の内容(時間)を増加
(3) 目標に準拠した評価「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3観点になる
(4)生物育成内容の取扱いで(調べる活動などを通して)作物の栽培、動物の飼育及び水産生物の栽培のいずれも扱うこと。になる。

2.私たちが目指す「技術科教育」

 子どもと作ってきた技術の授業は、深い学びの実践が多数ある。次に3つの事例を紹介して討論の資料とする。

① 技術の負の部分にも触れるべき

 今回2、内容A、B、C、D全ての「生活や社会を支える技術」において、技術の負の部分があることにも触れるべきである。たしかに、技術の使い方で生活が便利になった。例えば電気で生活が快適、便利になったことがあげられる。

 しかし、震災が原因で福島県の原子力発電所が爆発して人々の生活や社会を支えるどころか壊してしまった。放射能汚染で住めなくなった人がいる。全国の原子力発電所では放射能廃棄物が増えている。

 これを解決する技術はない。

 子どもには手回し発電機の製作などでも「原子力に頼らない自然エネルギー」を利用して電気を作る技術もあることを学んで欲しい。

② 技術は深い学びに発展する。

 技術科は深い学びに発展する教科である。栽培の授業などを通じて子どもたちは育てる喜びを感じたり、感動をおぼえたりする。その理由は次の実践から生まれた。

○学校には農園が無いので袋栽培でトウモロコシを栽培した。教育委員会の方にグランドに入れる土を運んでもらい、堆肥を混ぜる。そして、その土を玄米の保管用の通気性のよい袋に入れる。

 トウモロコシの種をうめて、毎日水やりをする。

<収穫した時の感想>

・僕は正直なところ、あんな袋に土を入れて、トウモロコシが育つのかと疑問に思っていました。

・母が大のトウモロコシ好きなので、母と半分に分けて食べた。自分で育てたものを食べてみて、こんなに美味しいものだとは思わなかった。

・育てているうちに、自然の力はすごいと思った。毎日必ず何かの変化があるからです。土から芽が出て、花が咲いて実ができる。自然は私たちにとって改めて大切なものだと思いました。

<この実践からの子どものたちの学び>

・体験することで学ぶ喜びをもつ。

・自然の力の素晴らしさを知る。

・他人と共有する事で人の温かみに気づく。

③資質・能力はひきだすもの

 今回の改定の最終具的は、国が定めた「資質・能力」の育成になっている。これでは、子どもの感動や喜び、やる気を引き出す実践でなく、子どもの資質・能力を評価する事を優先する授業内容になる。これは技術の教科としての存在感をなくす事につながる。

 学習指導要領では、子どもの「資質・能力」を育成するとあるが、子どもは基本的に資質・能力を持っている。それを引き出して子どもに気付かせるのが教育である。日頃、子どもたちには「技術の発達が人類の発展を支えてきた」と授業で伝えている。

 技術は石から石器を作ることから始まった。石器を作るときは完成品を想像して、どの場所を叩いたらよいか決める。人類は創意工夫をおこなう中で自分の持っている資質・能力を伸ばし、引き出してきた歴史がある。また、経験で得た技術を仲間に伝えるには、身振り手振りや、簡単なコトバを使い、地面に図も書いて相手に伝えることで技術は発展してきた。そして図を何回もかくことで「脳が鍛えられ、想像力が高まる」このように技術が発展する中で、人類は発展してきた歴史がある。

<製図の授業での工夫>

 簡単な正方形を書く事から始めると、難しい図も理解出来るようになり、物事を多面的に見て考える力が付く。ここからも子どもたちは基本的に資質・能力を持っており、それを引き出すのが授業である。製図は想像力を高めるのに有効なものであり大切な時間である。しかし、製図を学ぶ時間が少なく、改定のたびに製図の内容が変わることは大きな問題である。

3.まとめ

 技術科がかかえる問題点を最後に記しまとめにしたい。

① 技術・家庭科の週当りの授業数を増やす。中学3年生のように週1時間では教科として成り立たない。

② 一人の先生で1、2、3学年の技術・家庭の全てを教えるのは無理がある。

③ 深い学びの学習ができるように、少人数での授業編成を行い、専任教師を増やすことが急務である。

④ 生物育成に必要な施設、設備の充実を。

  

新学習指導要領 批判分析 家庭科

新学習指導要領 職場討議資料 > 家庭科

大阪教職員組合 「教育課程・教科書」検討委員会

家庭科

<小学校>

1.新学習指導要領の特徴と問題点

 新学習指導要領の大きな特徴として次の3点があげられる。

 まずは「第1 目標」において、新学習指導要領で初めて示された「資質・能力」に準拠し、家庭科では、「生活をよりよくしようと工夫する資質・能力」と規定されていることである。そしてその3つの柱に沿った具体的目標が示されている。このように、理解する力や表現する力を、身につけるべき「資質・能力」として示すことは、押しつけにつながり危険である。

 二つめは、「第2 内容」がA~Cに共通して、「課題を持って、○○を考え、工夫する活動を通して、次の事項を身につけることができるよう指導する。」と示されている。そして、「~できること」から「~理解し、適切に使用できること」に変更しており、体験してこそわかるといった子どもの視点からの目標になっていないことは大きな問題である。また、「思考力・判断力・表現力等」が全てで新設され、「課題を解決する力を養う」など、学習方法まで細かく規定していることは、子どもたちの自発的な学びを阻害するものである。「内容の取扱い」では、(3) 実践的・体験的な活動を充実すること。(4) 技能の習得状況や個に応じた指導の充実に努めること。が新設され、一層の配慮や充実が求められるようになっている。

 三つめは、「第3 指導計画の作成と内容の取り扱い」が高度な内容になっている。「協力、健康・快適・安全、持続可能な社会の構築等」の見方・考え方の視点を持って、計画するだけでなく、「B衣食住の生活」の学習と関連させた活動や「異なる世代との交流」、他教科と関連させた活動、衣食住生活全てで生活文化の取り扱いの充実が求められることも大きな変更点である。

2.私たちがめざす「家庭科教育」

 「知識」や「技能」を身につけることは今までも大切にしてきたことであり、生活を主体的に送る上でも大切である。

 しかし、「思考力・判断力・表現力等」を全てに言及していることは、一方的に考えや正解を押し付けてしまうことにつながりかねない。基礎基本は大切にし、自らが考え、行動していける生活の営みを身につけさせることが重要である。また、「~できること」から「~理解し、適切にできること」と変更になっているが、子どもたちが自立してできるようになるまでには、相当の時間がかかる。このことからも、子どもの生活実態からはじまる実践を進めることが重要である。

 「第3 指導計画の作成と内容の取り扱い」では「特別支援教育」の充実や「食物アレルギー」への配慮、ICTの活用の充実が求められると言及されているが、今までも子どもの発達や状況に合わせ進めてきたことである。一層の充実を求められているが、そのためには、教育条件や環境を整えることが重要である。

<中学校>

1.新学習指導要領の特徴と問題点

 特徴と問題点として、次の2点があげられる。

 まず、現行学習指導要領では「『基礎的・基本的な知識及び技術の習得を通して』生活についての理解を深め」、とされているが、新学習指導要領では、その前に「生活の営みに係る見方・考え方を働かせ」という文言が新たに挿入されている。また小学校と同様に、新たに3つの項目を立てて、育成すべき資質・能力を具体的に示されていることは大きな問題である。

 二つ目は、内容項目の大きな変更はないが、A家族・家庭生活が重視されている。「3 内容の取扱い」の記述でそれが如実に表れている。(2)のアでは取扱い方を詳しく記述し、エでは「高齢者の身体の特徴について触れること」が新設されている。また「介護体験」にまで言及し、「介護は家庭や地域で」、という自己責任論を強く押し出している。他にも、日本の伝統文化を大切にすることを否定はしないが、「日本の伝統文化」を重んじ、継承していくことに各所で言及していることは「愛国心」教育の押しつけにつながり、連携先に新たに「企業」が加わっていることは、財界が求める「人材」育成につながる危険性があり、大きな問題である。

 最後に、住生活では「安全な住まい方」が追加されているが、住空間を整えることだけで、「自然災害」から私たちの命や財産が守られることはなく、内容に疑問が残るところが散見されるところも問題である。

2.私たちがめざす「家庭科教育」

 「家族・家庭の基本的な機能」が重視されている中、私たちは「多様な家族がある」という視点を持ち実践を行うことが大切である。また、内容を逆活用できる部分もある。例えば、「内容の取扱い」にある「生活の科学的な理解を深めるための実践的・体験的な活動を充実すること」を活用し、「科学的な」ものの見方や態度を育てていくことや、「協力・協働、健康・快適・安全、生活文化の継承、持続可能な社会の構築等を視点として考え」ての部分から、様々な問題を解決していく力を子どもたちに身につけさせるようにする視点として活用できる。また、これまでも実習などでおこなってきたが、食生活で「だし」が取り上げられたことは大きい。それをさらに発展させ、日本の農業、漁業、林業といった第1次産業を大切にした実践が展開できる展望がある。

 しかし、「高齢者」問題、「介護」問題、自然災害と住居の安全性の単元が「自己責任論」に陥らないような取り上げ方が大切であり、小学校と同様に「特別支援教育」の充実、「情報通信ネットワーク」の活用、「技能の習得状況に応じた少人数指導」をおこなうには、条件を整えることが重要である。

 実践で大切にしたいことは、生徒や家庭、地域の実態をしっかりつかみ、教師自身が「科学的な」ものの見方を持ち、しっかりとした「主権者」を育てる視点をもつことである。