自由法曹団が府教委にチャレンジテスト中止を要請

要請書

平成28年12月6日

大阪府教育委員会御中

自由法曹団大阪支部
支部長 上山 勤

第1 要請の趣旨

 貴委員会は、本年6月23日に「中学生チャレンジテスト」を中学3年生に実施し、来年1月12日には中学1、2年生にも実施するとし、また、この結果が、来春の高校入試の調査書評定に利用され、今後、中学1,2年生の内申点も高校入試に利用するとしている。

 しかしながら、府内における統一テストでの成績を高校入試における内申点評価に反映させることは、行政調査の目的を超えた行為であって、来年1月12日のチャレンジテスト実施及びチャレンジテスト結果を調査書評定に利用することを即刻中止すべきである。

第2 要請の理由

1 法律による行政の原理に反し、貴委員会の権限のない行為である
 貴委員会によれば、チャレンジテストの点数によって、中学校3年生においては学校ごとの内申平均を定め、中学校1,2年生においては、個々の生徒の内申点を変更させられる、とのことである。

 しかしながら、そもそも生徒の内申点を定める成績評価権は教諭の権限であり(学校教育法37条1項11号)、教育委員会の権限ではない(地方教育行政の組織及び運営に関する法律20条1項各号)。この点については、高等裁判所判決(仙台高裁昭和44年2月19日判決)においても「生徒個人の成績評価は正に具体的教育活動に属し、担当教諭のみがなし得る事項であり、教育行政機関に許されるところではない」と判示しているとおりである。すなわち、教育行政機関たる貴委員会は成績評価権を持っていないのである。

 したがって、法律の根拠もなく、上記のとおり担当教諭が行うべき成績評価を拘束するような本件チャレンジテストの扱いは、法律による行政の原理からして許されるものでは無い。

2 内申点の意義を失わせる

 貴委員会の扱いによれば、チャレンジテストという学力検査により、中学校3年生においては学校ごとの内申平均を決定し、中学校1、2年生においては個々の生徒の内申点を変更させられる、とのことである。

 しかしながら、かかる扱いは、内申点の意義を失わせるものであって、不当と言わざるを得ない。

 そもそも文部科学省によれば、「調査書(いわゆる内申書)は、高等学校等の入学者選抜のための資料として作成されるものであり、生徒の平素の学習状況等を評価し、学力検査で把握できない学力や学力以外の生徒の個性を多面的にとらえたり、生徒の優れている点や長所を積極的に評価しこれを活用していくという趣旨のものです。」(文部科学省HP「よくある質問と回答「指導要録とは何ですか。通信簿(通知表)や調査書(いわゆる内申書)とは何が違うのですか。」」http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakuryoku/faq/001.htm#07)とされている。

 すなわち、内申点とは学力検査で把握できない生徒の普段の授業態度等を評価することに意義がある。

 しかしながら、チャレンジテストという学力検査により、各教諭が「生徒の平素の学習状況等」に対して行う評価を、学校ごとに決定した内申平均で拘束し、教諭が付けた成績を変更させられるのであれば、学力検査に大きく依存させた評価と言わざるを得ず、学力検査では把握できない学力や学力以外の生徒の個性を多面的に評価しようとした内申点の意義を没却するものであると言わざるを得ない。

 現に、貴委員会作成の平成27年度「評定の範囲」によれば、チャレンジテストで83点以上とれば、どれだけ平素の学習態度が悪くても内申点において「5」が確保され、71点以上で「4」以上が確保される。反対に、平素の学習態度がどれだけ良くても、チャレンジテストで50点以下をとれば内申点において「3」以下、26点以下を取れば「2」以下に下げられる。

 このような扱いが、内申点の趣旨である「生徒の平素の学習状況等を評価し、学力検査で把握できない学力や学力以外の生徒の個性を多面的にとらえたり、生徒の優れている点や長所を積極的に評価しこれを活用していく」趣旨と矛盾することは明らかである。

 以上のとおり、内申点の意義を無意味にするものである。

3 大阪府公立高等学校入学者選抜における評定の公正性を担保しない

 貴委員会はチャレンジテストの目的にについて「調査結果を活用し、大阪府公立高等学校入学者選抜における評定の公平性の担保に資する資料を作成し、市町村教育委員会及び学校へ提供する」(大阪府ホームページ「平成28年度中学生チャレンジテストの実施について」)とし、目的は「公平性の担保」であると述べる。

 しかしながら、チャレンジテストは、任意のものであり、必ずしも全ての生徒に受けることが義務づけられているものではない。たとえば、中学1、2年生においては、チャレンジテストで得点をとれない生徒は自分に悪い内申点がつくことをおそれ、受けることを控える可能性がある。

 また中学校3年生においては、学校ごとの内申平均が定められるために、成績の悪い生徒は自発的ないしは周囲からの働きかけでテストを受け控えるという事態も想定されるところである。

 とすれば、(仮にチャレンジテストで真の学力が調査出来るかはともかく)チャレンジテストの実施運用によって、学校毎の学力を正確に把握できるかは保証の限りではなく公正性は担保されていないのである。

 また、国、社、数、理、英の主要5教科のチャレンジテストの結果で、テスト教科以外である「音・美・体・技体」の内申点の学校ごとの平均も定まる。要するに、主要5教科のチャレンジテストの結果が良い学校については、副教科でもある「音・美・体・技体」でも高い内申平均を取得することになる。しかし、主要5教科のチャレンジテストの学校平均が高い学校が、副教科4科目において優れた学力を有しているという必然性はなく、これらの科目についての公正性は全く担保されていない。

4 結語

 以上のとおりのチャレンジテスト実施及びチャレンジテストの結果を調査書評定に利用することを即刻中止すべきである。

以上