「こども家庭庁」の危険なねらい

「こども家庭庁」の危険なねらい
―「こども政策の推進に係る有識者会議報告書」から見えてくる重大な問題点―

2021年12月22日
大阪教育文化センター事務局次長 山口 隆

はじめに

2021年11月29日、「こども政策の推進に係る有識者会議」は、「報告書」をまとめ、清家篤座長は、岸田総理大臣に提出しました。この報告書は、2023年度に設立するとされている「こども家庭庁」の方向性を示すものです。この「報告書」に対して現時点では、批判的な報道はほとんどなされていませんが、以下に述べるように、「GIGAスクール構想」やデジタル庁による国民監視・支配の一環として、重大な問題を持つものと考えます。
以下、いくつか問題提起します。

1.「子どもの権利」などをちりばめてはいるが

「報告書」は、政府関係文書には珍しく「こどもの視点、子育て当事者の視点に立った」などという文言を使用し、「子どもの権利条約(「報告書」文中では「児童の権利に関する条約」)に則り」という文言や、子どもの権利条約第3条1項が規定する「子どもの最善の利益」という文言、第12条が規定する「子どもの意見表明」や「意見反映」という文言をあらゆるところにちりばめています。

上記に加え「こどもが、個人としての尊厳を守られ」という文言なども使用されていることから、一見、まじめに子どもの権利を尊重する立場で検討し、書かれているかのように見えますが、以下に述べる問題を見ると、その本質は子どもの人権を侵害し、家庭教育に対する大がかりな介入をおこなおうとするものであり、きわめて危険で重大な問題を持つものといわなければなりません。

「報告書」で使用されている「子どもの権利条約」や「子どもの権利」「子どもの最善の利益」などのいわば「目くらまし」を取り除けば危険な本質が浮き彫りになってきます。以下、とりわけ重大であると思われる問題をいくつか指摘します。

2.危険な「アウトリーチ型支援」「プッシュ型支援」

「報告書」は、「待ちの支援から、予防的な関わりを強化」するとして「必要なこども・家庭に支援が確実に届くようプッシュ型支援、アウトリーチ型支援に転換」と述べ、いたるところに「プッシュ型支援」「アウトリーチ型支援」という文言が使われています。

一見、積極的支援の方向性が示されているかのように見えますが、たとえば「児童虐待防止対策の更なる強化」の項目でも「ハイリスク家庭へのアウトリーチ支援の充実」と述べられていますが、どの家庭が「ハイリスク家庭」であると誰が判断するのか、という大きな問題があります。この家庭が「ハイリスク家庭」であると判断するには、その基準が必要です。そのために「報告書」は「個々のこどもや家庭の状況や支援内容等に関する教育・保健・福祉などの情報を分野横断的に把握できるデータベースを構築」とのべています。つまり、各家庭の経済状況をはじめとする個人情報をあらかじめ収集し、これを蓄積してデータベースをつくり、そのデータをもとにして「アウトリーチ型支援」をおこなうということです。

となれば、実際に児童虐待の実態がなかったとしても、収集された各種データから、おそらくAIが「児童虐待のおそれがある」と判断した場合に、「アウトリーチ型支援」をおこなうということになります。

これは大変危険なことです。つまり、児童虐待の事実がなかったとしても、その家庭に児童虐待があったはずだと判断して「アウトリーチ型支援」をおこなうということは、「支援」どころか、家庭への介入そのものであり、重大なプライバシー侵害を引き起こすことになります。

「報告書」では、こうしたやり方を、児童虐待のみならず、「社会的養護経験者や困難な状況に置かれた若者の自立支援」についても、「ひとり親家庭への支援」についてもおこなうとされており、家庭に対する様々な問題についての介入がおこなわれるおそれがあり、危険極まりないものといわなければなりません。

3.子どもだけではなく家庭のデータも蓄積・収集・「利活用」

上記したように「報告書」では、「こども・家庭支援のためのデータベースの構築」が打ち出されています。そこでは「地方自治体において、個々の子どもや家庭の状況や支援内容に関する教育・保健・福祉などの情報を分野横断的に把握できるデータベースを構築し、情報を分析し」と述べ、子どもだけではなく、家庭の状況についてもデータ収集することが述べられています。「報告書」では「支援」とされている対象が「子どもの貧困」なども含まれ、「保護者の就労支援」や「経済的支援」などについても言及されていることから考えると、家庭の収入や預貯金の額、公共料金の滞納の有無などについてもデータ収集することが予定されていると考えられます。

これは、デリケートな個人情報についても蓄積され、収集され、「利活用」されることを意味しており、断じておこなってはならないことです。

さらに「報告書」は、「データ・統計を活用したエビデンスに基づく政策立案と実践、評価」を打ち出しています。その中で、「行政のデジタル化を進め、各種統計におけるこどもに関するデータや…こどもの健康や学力等に関する情報のデータベースの構築・活用などを更に充実させることが求められる」と述べています。これは「GIGAスクール構想」と一体にデータ蓄積と利活用をすすめようとするものであり、重大な問題を持つものです。

4.「GIGAスクール構想」も組み込んで

上記したように、「報告書」の打ち出す方向は、「GIGAスクール構想」と一体です。「報告書」は、「全てのこどもたちの可能性を引き出す学校教育の充実」という項目を置き、そのなかで、中教審答申同様に「個別最適な学びと協働的な学びを一体的に充実し」として、「GIGAスクール構想を基盤としたデジタルならではの学び」と述べています。「GIGAスクール構想」のねらいは、すでに教文センターブックレットが明らかにしているように、教育を市場として財界・大企業に開放することと、子どものデータ蓄積と利活用による、行政権力による子ども監視と支配にあります。これと一体の「報告書」の方向は、「こども家庭庁」による子ども支配と家庭支配をねらうものといわなければなりません。

こうしたよこしまなねらいを国民的に明らかにし、国民世論と運動の力でストップをかけ、本当に子ども、国民や父母・保護者が願う支援のあり方について、国民的な討論をふまえ、政策提起していかなければなりません。

おわりに

12月21日の報道によると、岸田内閣は12月21日に「こども家庭庁」の基本方針を閣議決定したとされています。それによると、「こども家庭庁」は総理大臣の直属機関として、各省庁に勧告権を持つなど強い司令塔機能としての役割が盛り込まれ、基本方針には上記の司令塔機能のほか、「こども家庭庁」を2023年度のできるだけ早い時期に設置すること、組織は成育部門、支援部門、企画立案・総合調整部門の3部門で構成されることなどが明記されているということです。

上記の立場に立った批判を強めるとともに、憲法と子どもの権利条約に即した教育政策を求めるともに、憲法と子どもの権利条約を生かした教育活動を前進させなければなりません。