「教育基本条例案」「職員基本条例案」の撤回を求めます

子どもたちの学習権を侵害し、教育の場をいっそう競争的にする
「教育基本条例案」「職員基本条例案」の撤回を求めます

2011年9月21日 大阪教育文化センター

 橋下知事を代表とする「大阪維新の会」は、9月府議会に「教育基本条例案」と「職員基本条例案」を提出しました。これら二つの条例案は、政治による教育の支配をもたらすと同時に、教職員の管理強化を通して、学校で学ぶ子どもたちの学習権が侵害されるものであることから、直ちに撤回されることを求めます。

 教育という営みは、教師と児童・生徒との直接的な人間関係から形成されるものであり、それぞれの成長発達にあわせて行われなければならないことは言うまでもありません。それは、人格の完成を目指して行われるものであって、子どもたちの内面に関わる活動でもあります。そのため、教育活動への権力的介入は控えられなければならないのです。

 しかし、「教育基本条例案」によれば、教育に対して政治が優位に立つものとなっており、教育活動そのものへの政治支配を正当化しています。戦後の公教育は、日本国憲法にのっとり、子どもたちの教育を受ける権利(学習権)を保障するために行われるものとなりました。政治が教育へ介入した結果、戦争へ国民全体と駆り立てていったことに対する深い反省がそこにあったのです。それは、今でも決して放棄されるべきものではなく、一層強化されるべきものです。

 教育全体に対して知事が強い権限を持つことを定めています。府立高等学校の教育目標の設定は教育内容に対する明らかな政治介入です。教育委員の罷免制度は、教育行政に対する政治の介入です。校長は教育の専門職ではなく、あくまで学校管理者であればよく、知事の定めた目標の忠実な実行者であればよいとしています。教師に対しても、相対的な人事評価を通して、常に5%のDランクを設け、2年連続でDの場合には分限処分の対象とする、で同じ職務命令に3回違反すれば免職など、子どもたちではなく校長、教育委員会、知事の方を見ながらの職務遂行を求めている。

 さらに、大阪府独自の学力調査の実施と学校別の成績公表により、子どもたちを競争巻き込んでいくものです。実績を上げなければ、教師、校長の評価が下がります。子どもたちを教育の主人公ではなく、大人の道具とするものです。また、3年連続で定員割れした府立高校は統廃合の対象となります。すべての府民が高校教育を受けられる条件を満たすように公立高校は作られる必要があります。通学区域なども考慮に入れなければなりません。学区を廃止し、府下のすべての高校を競争させ、一部のエリート校だけを府立高校として残すことになります。 これでは、大阪府の責任を果たすことにはなりません。高校の統廃合で出た余剰人員は分限免職できる仕組みまで設けています。教師は、教育の専門職として適切な待遇を受けることは、ユネスコの教員の地位に関する勧告で指摘されていることに反します。

 学校間競争、学校内での競争、それに駆り立てられる子どもたち、こんな学校になってしまったのでは、本当の教育は成り立ちません。「子どもの自律」を教育目的の一つとしています。それは、競争社会の中で、他に依存しない子どもたちを作り上げることです。多様な価値観を共有しながら、支えあって生きていく社会ではなく、競争に負ければ自己責任だという価値観を押し付けるものにほかなりません。子どもたちは一層生きづらくなっていくでしょう。国連の子どもの権利委員会で3回にわたり指摘され続けている「過度に競争的な教育環境」を一層悪化させるものでしかありません。

 未来の子どもたちが自らの個性を伸ばし、成長発達権を保障するために、二つの条例は直ちに撤回されるべきです。