大阪教育文化センター 第3回教育講座 9月14日(土)

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大阪教育文化センター 第3回教育講座 9月14日(土)

こんな道徳どうでしょう?!

子どもとともに考えたい特別の教科「道徳」の授業
目の前の子どもの実態から育てたい子どもの道徳性

9月14日(土) 13時半~16時半
たかつガーデン・3FカトレアA
(近鉄大阪上本町駅・大阪メトロ谷町9丁目)

 4月から中学校でも教科書を使用した特別の教科「道徳」が始まっています。「道徳の授業」をして,いかがですか。
 昨年,大阪教育文化センターの教育講座(6月30日)で,教科書資料の中から「かぼちゃのつる」「おかあさんのせいきゅうしょ」「手品師」を,スピンオフ講座(11月24日)で「星野くんの二塁打」「二通の手紙」を扱い,学習指導要領の内容から「こんな実践もできる!」ということをみてきました。
 「教科書」なら楽に授業が展開できる,でもやっぱり「教科書」の内容とクラスの子どもの実態とかけ離れているようで,しっ
くり来ない…。
 本講座は,さらに内容を深めて,子どもの「道徳性」をどう育てていくかを考えていきます。ぜひ,ごいっしょに考えてみ
ませんか。
【大阪教文センター教育課程研究会】

 道徳的価値を内心に同化させる危険性
 すでに小中学校でスタートしている「特別の教科 道徳」では,学習指導要領に定められた個々の徳目へと子どもたちを誘導するようにつくられた教科書が使われている。そういう教科書をそのまま使ってしまうと,文科省が言う「考え,議論する道徳」が180度変質してしまう恐れがある。一人ひとりの児童生徒が自分自身の答えをつかみ取るのではなく「考え,議論する授業」が外から与えられた答えに自分を同化させていくプロセスになってしまうからである。
 これはとても怖いことだ。子どもたち自身に議論させてはいるが,それは結局子どもたち自身が納得した上で,あらかじめ設定された一つの価値観念に到達するよう誘導されてしまうのだ。(前川喜平・元文部科学事務次官)
「同調圧力」望月衣塑子 前川喜平 マーティン・ファクラー(角川新書 2019年6月)より

【概要】

 大阪教育文化センターは9月14日、第3回教育講座「こんな道徳どうでしょう?」を開催しました。
 冒頭,教文センター事務局長の山口隆さんから問題提起がありました。
 そこで,昨年度は教育課程研究会から「道徳教科書の『活用術』」をテーマに講座をおこなってきましたが,徳目に縛られる教科書の「活用術」には限界があることを確認し,改めて子どもたちに道徳性を育む教育とは何かという問題に立ち返り,実践集約・検討に至ったことが報告されました。

報告では,戦後教育の出発点は、教育勅語を筆頭とする,戦前の修身科による国民教化への深い反省にたったものであり、そのもとでどのような道徳教育が構想されたのかについて言及しました。その中心点は、日常の教育実践の中にこそ「子どもたちに道徳性を育む教育」があることです。
そのことは、「道徳教育は,徳目を教え込むのではなく,学校生活全体を通して行われるべきである」こと,「自主的,自律的人間形成をめざす教育活動の中で,子どもたちの道徳性を育むこと」とされた、1951年学習指導要領や1948年から中学・高校で使用された文部省著作教科書「民主主義」からも明らかであると述べられました。
 
「『学級にある宝物』から始める道徳実践」

 Hさんは、今年4年目の若い教員です。Hさんは,昨年もった低学年の子どもたちから「道徳は教科書ではなく,学級にあるたくさんの『宝物』から始めればいい」ということを教わり,子ども・保護者とともに実践してきました。道徳の時間を中心に「自分たちの成長を確認する時間,学級のみんなを見つめる時間」を作りだし,その中で1日1日の学級での生活を振り返る中で,みんなの「宝探し」を始めます。そして2学期末には「教科化された道徳」についての担任の姿勢について学級通信を出し、保護者に感想を求めたところ,大きな反響がありました。道徳教科書の率直な感想,そして『日々の生活こそ,大切な大切な道徳教育だと思っています』などの意見が多く返ってきました。

 そうしたことを背景に,今年度高学年での授業が始まります。4月当初,子どもたちはそれまでの「道徳の授業」の感想を恐る恐る語り出します。「教科書はどの話も見出しを読めば内容がわかる」「どの話も展開や結末が同じ」という子どもたちの本音を受けて,Hさんは高学年の子どもたちとともに,学級の宝探しを始めます。そして「道徳の宝物」というテーマで授業したときの感想で子どもたちはこう書いていました。

♫「もっとこれからみんなのことを知って宝物を増やしたい」
♬「全員の宝物が生まれてよかった」
♪「私は自分の宝物が思いつかなかったけど,あることに気がついた。これをきっかけに自分の宝物に気づくことができ,みんなのことも少し知ることができた」
♫「みんなの宝物を合わせたら,教科書よりもいい物語ができた」
 子どもから出発し,子どもとともに歩んでいく姿が見える実践報告でした。

「行事・学級活動から出発する道徳」

 Tさんも今年4年目の若い教員です。Tさんは,「働き方改革」の名のもとに、家庭訪問や遠足などの大事な行事が削減された学校に勤めています。しかしTさんは,「行事こそ子どもが成長する大きなチャンス」と捉え,学校行事や学級活動と道徳の内容項目を照らし合わせ,それに向けたとりくみを「道徳」の実践に昇華させることを学年会に提案します。残された行事はそう多くはありません。1学期に運動会,2学期は遠足と縦割り活動(新規),3学期は「二分の一成人式」です。しかし,学校行事は道徳としても年間計画には組み込みやすいので,それを利用した提案です。クラスとしてはそれぞれ個性を出しながらも,学年として一致点を獲得していきます。

 Tさんは,行事のとりくみで道徳の時間に2回の話し合いの場を設け,「真剣にがんばるから楽しい」「楽しいにもいろいろある」などの子どもたちの本音を引き出していきます。
 学級活動のおもなものはミニ集会や係活動・「会社活動」です。道徳の時間を話し合いや「考えを深めるきっかけ」として教科書を利用するなどして,活動を活発化させています。

 ミニ集会は,月1回のクラス集会のことで,実行委員を中心に話し合いをすすめ,めあてと遊びを決めて1時間クラスで過ごす活動です。4月は自己紹介ゲームをTさんが提案,5月から子どもたちが中心となってすすめていきますが,集会は大げんかになってしまいます。そうした中でも子どもたちは「リベンジしたい」と訴え,道徳の教科書を使っての振り返りやクラスの課題を出し合う話し合いを通して6月の集会を見事に成功させます。しかも子どもたち自身で集会を成功させるための工夫を出し合うなど,成長が見られます。

 また,係活動は「クラスに必要な当番活動」,「会社活動」は「あればみんなが楽しく気持ちよく過ごせるための活動」と位置づけ,みんなが興味を持たなくなれば「倒産」するというユニークな学級内クラブ活動です。時には失敗をしながらも、話し合いを通して活動している中で様々な道徳性が育っていく実践でした。

 全国的に見ても,「道徳」の実践が「教科書」をどう教えるかに終始したり,教科書を超えた内容であっても「道徳の1時間」に落とし込むものであったりと,「道徳の1時間」を授業することが「道徳教育」であるとはき違えた実践が多い中で,今回の講座で報告された2つの実践は,行事などの活動,日常の学級活動を通して,子どもたちがあらゆる場面で「道徳性」を身につけていくものとなっています。それは,若い実践者がともに成長する主体として子どもを捉え,子どもたちとともに歩んでいるからだと思います。
 討論のあと,教育課程研究会代表の今滝憲雄さん(大阪千代田短期大学)が、「新しい民主的社会の形成者としての『道徳性』が全面主義的な教育活動においてどう身につけられているか」を2人の実践から引き出し,まとめとしました。