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新学習指導要領に立ち向かう 算数

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大切なことをていねいに教える算数の授業を!

大阪教育文化センター「学習指導要領問題」研究会
『おおさかの子どもと教育』90号 2018.2.所収

1 子どもたちの「現状」と新学習指導要領

 くり下がりのひき算で指を使っている子どもがたくさんいませんか?かけ算九九が十分に定着していない子どもが多いとは思いませんか?わり算が苦手な子どもが増えてきているように感じませんか?私の周りでは、そんな声が聞こえます。

 一方、全国学力・学習状況調査(全国学テ)の結果からは、「割合や応用問題に課題がある」などと分析されているようです。

 そんな中で出された新学習指導要領では、このような「現状」が改善されるような改訂がされたのでしょうか?

 新学習指導要領の主な変更点をまとめたのが、下の表です。現行2年生の分数学習は「1/2、1/4など」とされています。これは、折り紙や紙テープを折って分数を学習するときに、「1/3」を作ることは難しいための配慮だと言われています。しかし、新学習指導要領では「1/2、1/3など」と、1/3も学習することになりました。

 また、メートル法の一次元の単位(長さ・かさ・重さなど)を3年生で学習する関係で、これまで「10、100、1/10」のみだった倍の学習に「1000倍」が加わっています。

 さらに6年生では、中学生でも理解が難しいと思われる「中央値・最頻値」などを扱うことになります。

 全体として、現状の困難さを置き去りにしたまま、学習内容は増え、そして難しくなったと言えるでしょう。

 このように学習内容を難しくした背景には、おおむねふたつの理由があると思われます。

 ひとつは、「全国学テで正答率の低い内容は、より早くからくり返し学習させよう」という考え方です。分数や割合の例が、これにあたるでしょう。
もうひとつは、「将来、働くときに知っておいて欲しい知識は、全員貝がわからなくてもかまわないから教えてしまおう」
という考え方です。1000倍の追加や、中央値・最頻値などがこれにあたります。

 そこからは「学習する内容には、子どもの発達に応じた適当な時期がある」という考え方や、「子どもたちひとりひとりを大切に育てよう」という発想は感じられません。それどころか、子どもの発達を無視して「社会」が必要とする知識を一部の子どもにだけでよいから身につけさせよう、という姿勢さえ感じてしまうのです。

2 大切なことをていねいに致えよう

 このような新学習指導要領を前にするべきなのは、大切なことをていねいに教えることではないでしょうか。そのためには、「大切なこと」は何なのかを、私たち自身があらためて心に留める必要があります。

 たとえば、十進位取り記数法の仕組みは、低学年の数の入門期から高学年での小数の学習までを通した大切な学習内容です。メートル法の仕組みにも関連し、十進構造とは異なる仕組みの分数の理解にもつながります。

 量と場面もそのひとつです。その問題で扱われている量が「子ども1人」「アメ玉1個」のように小数・分数にはできない量(分離量)なのか、「ジュース1.2L」「時速21.3㎞」のように小数・分数にできる量(連続量)なのか。また、同じ「3+2」になる文章題でも「3個と2個を合わせる(合併)」たし算なのか「3個から2個増える(添加・増加)」「3個より2個多い(求大)」たし算なのか。ひき算なら求算なのか求差なのか求小なのか、わり算なら等分除なのか包含除なのか、…など、量と場面の仕組みとそこから導かれる演算の意味は、大切にするべき内容です。また、1あたり量とかけ算・比例・割合の仕組みや意味の理解も大切だと言えます。

 このように書くと大切なことがとても多く、新学習指導要領によっておこる困難さを克服することは難しいと思われるかもしれません。でも、そんなことはありません。ここで挙げた内容は、ある単元その学年限りではなく、算数・数学教育を通して一貫する大切な意味や仕組みです。大切に扱わなければいけませんが、決して多くも難しくもない。常に意識し続けることで、また発達に合った時期に学習することで、子どもたちは深く理解することができます。そして私たちは、それほど大切ではない内容を軽く扱うこともできるようになり、大切なことをさらにていねいに教えることができるようになるのです。

 そのような実践は、民間教育サークルをはじめ、これまでの研究成果に学ぶことで十分に可能です。

3 新学習指導要領の困難さへの対応

 大切なことをていねいに教える実践はこれまでの成果に学ぶとして、新学習指導要領の困難さにはどのように対応すればよいのでしょうか02年生の分数と3年生のメートル法について紹介します。

 「2年生の分数がわかる」とはどういうことでしょうか? 私は、「(たとえば)1枚の折り紙をを2等分したうちの1枚を1/2枚という」ことがわかることだと考えています。では、その理解のためにこれまで「1/2、1/4」だった学習内容を「1/2、1/3」にあらためる必要があるのかといえば、そんなことはありません。分母が2であれ3であれ4であれ、「□等分かしたうちのひとつを1/口という」ことは理解できるからです。そうであれば、折り紙や紙テープで作りにくい1/3を学習することは、分数理解に関係ないばかりか、必要以上の難しさを子どもたちに押しつけることになってしまいます。そんなことはせず、子どもの実態に合わせて私たちが、学習内容を調整すればよいのです。

 では、メートル法はどうでしょうか。メートル法の学習で子どもたちが戸惑うのは、単位換算でしょう。そうであれば、教具を使うことで対応できそうです。

 例えば「1㎞は1mの1000倍だから、2.3㎞は1000倍して2300m」ということを頭の中で考えることは難しくても、単位換算表を使うことで、メートル法の仕組みと単位換算の方法を理解することは十分にできます。

 右ぺージの単位換算表は、はがきサイズの画用紙に印刷し、ラミネートして使うタイプのものです。水性マジックで書いてティッシュペーパーで消せば、くり返し使えます。

 ここで紹介したのは一次元の単位(長さ・かさ・重さ)用ですが、同じ発想で、二次元(面積)用・三次元(体積)用を作ることができます。

 このように、その学習の本質的な意味を私たちが理解し、子どもの実態に合わせて柔軟に対応することで、指導要領の困難さを克服することができるのではないでしょうか。

4 カリキュラム作り・テスト作りに手を伸ばそう

 今回の指導要領改定を受けてあらためて考えたいのは、カリキュラム作り(教育課程の自主編成)とテスト作り(指導と評価の一体化)です。今、私たちの実践は教科書と市販テストに縛られすぎてはいないでしょうか。子どもたちに生きて働く本当の学力をつけるためには、目の前の子どもの実態を踏まえた柔軟な実践が必要です。子どもに合わせて教科書の問題の数字や場面をほんの少し変えるだけで、わかる・できる授業になるはずです。そのような授業ができたときには、市販テストだけでは評価できないこともあります。

 多忙さを極める中、カリキュラムやテストを作るなんて無謀だと思われるかもしれません。しかし、私たちは授業の工夫・評価の工夫をたくさん持っています。

 私自身の経験ではカリキュラム作り・テスト作りは決して難しいことではなく、それこそが、子どもたちに大切な内容をていねいに教え、私たちの多忙さを軽減する大切な鍵になり得ます。

 新学習指導要領への移行期は目の前です。少し勇気を持ってカリキュラム作り・テスト作りに踏み出してみませんか?